鏡の世界に囚われて

5th.偽らざる黒と、純白の嘘を

I have nothing to say to you.

　あなたが向けた言葉を、私はまだ忘れられずにいる。

『ごめん、そういう目では見られない。だって、俺は――』

　その後にあなたが言ったことを、どうしてか思い出せない。
　思い出せるのは、その言葉を告げてくれたときの悲しそうな瞳と、あとは断片的に映し出される恐怖と後悔と絶望とに満ちた、あなたらしくない表情。

　ううん、きっとこんなのは記憶でもなんでもない、ただの夢だ。
　だってあんなのあなたらしくないもの。

　だけど、どうしてだろう？
　それを思い出すたびに、私の胸は苦しくなっていって。
　思えば、それからじゃなかったかな。
　あなたがどこにもいなくなってしまった苦痛から逃げるために、好きでもない人に初めてをあげて、それからずっと、こんな生活を続けているのは。

　あの木の下に行かなきゃ。
　何故かそんな風に思ったから。
　私は明日、最後に会った線路のよく見える公園に行こうと思う。


　　　　　　　　　　　はやく　こっちにおいで