鏡の世界に囚われて

4th.硝子の世界

回帰の胎動、或いは楽園への誘い

　あれ、久しぶりじゃない？　元気だった？
　そう言ってくれるあなたを、わたしは知らない。

　ねぇ、ちょっと顔色悪くない？　大丈夫？
　そう尋ねてくれるあなたを、わたしは知らない。

　あのさ、少しくらい話を聞いてくれない？
　そう怒るあなたのこと、わたしは何も知らない。

　怖い、気持ち悪い、近寄らないで。
　寂しい、わたしを見て、傍にいて。
　全ての気持ちが溶け合う気がした。
　信じたくない。
　触れたくない。
　望みたくない。
　願いたくない。
　求めたくない。
　諦めたくない。
　ひとりは嫌だ。
　怖いのも嫌だ。
　寂しいよ。
　悲しいよ。
　傍に来て。
　笑ってよ。
　泣いてよ。
　怒ってよ。
　喜んでよ。

　そうやって、全てを曝け出してほしいの。
　そうしたら、きっとわたしもできるから。

　雨の中、誰にも届かない声をあげながら。
　今夜も、わたしは誰かの夢の中を夢見て。

　いつの間にか、あれだけ話しかけてきていたあなたはどこにもいない。
　気が付いたら、鬱陶しいと思っていたその姿を、もう求め始めている。
　そんな自分が、心の底から大嫌いだから。
　わたしはまた、自分で傷を増やしていく。

　

「嗚呼、その姿はとても美しいよ。どうか私の画廊へおいで？」


　だれ？
　そう尋ねようとした闇の先には、誰の姿もなかった。だけど、「画廊へおいで」という言葉だけが、心のどこかに楔のように引っかかって。
　どこかで、また誰かの笑い声が聞こえた気がした。