鏡の世界に囚われて

4th.硝子の世界

幻想遊戯、或いはからくり人形の笑み

　ここにいるのは、あなただけ。
　私すらも、ここにはいない。
　あなたを見るものは、誰もいない。

　眠れない夜の慰みに、そんな世界を想像してみた。
　あなたはそんな場所に行ったら、一体どうするのだろう？

　人を呼び寄せて、寄ってきたものは遠ざけて。
　無為に孤独を作って。
　そんな日々を送るあなたを、私は笑って見つめているけれど。
　そうする私もいない。
　もちろん、笑わずにいてくれる他のみんなも、いない。
　どうするのかな？
　私は、【ここ】ではないどこかから、あなたの様子を見ている。
　その最中に気付いた。
　あぁ、何もない世界じゃ寂しいよね。何かあなた以外のものも存在させておかないと。もちろん、人なんかじゃなくて。うーん……アニマルセラピー効果とかもあるっていうから、動物もやめとこうか。
　本当に孤独になってもらいたいから。
　それならいっそ、何もない空白の世界に閉じ込めてしまえばいいのかも知れないけれど、その空白に耐え切れずにあなたが壊れてしまったら寂しいから……ね？　だって、あなたが嫌いなわけではないんだもの。

　あ、誰もいなければ食事も運ばれないしインターネットだって使えないだろう……というのはナシね？
　その辺りの保証は……そうね、「あなたの生存を願う世界の意思」とやらの力でされているということにさせておいて？
　あなたには何の不自由もさせない。
　ただ、誰とも繋がれなくなるというだけ。
　想像してみて？
　自由だと思う？
　孤独だと思う？
　全てはあなた次第。

　納得できない？　もっと理論立てろ？　ふぅん、わがままだね。
　理屈を捏ねるのは、むしろあなたが得意なことでしょうに……。
　じゃあ、こうしようか。
　あなたには誰も接してこない。誰も見えない。確かに人はいるけれど、あなたにはその存在は見えないし、他の人にもあなたは見えない。そして接触することもない。これなら、あなたが色々なものを享受しても「あなたのテリトリーにはほかの誰も介在しない」という世界を実現させられるでしょう？

　この提案をしたら、あなたはどんな顔をするかな？
　きっと笑われて終わりかもしれないけど、もしかしたら想像力のある人だから、何か反応が返ってくるかも知れない。
　ふふふ、そんな夢想に笑いながら。
　私は眠れない夜を越える。

　あなたもおらず、他の誰も私を見てくれない。それでも生きるには何も不自由しないはずの【この場所】から。
　いつか【ここ】を出られたら、次はきっと、


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