8 / 29
2nd.三面鏡
三面鏡
しおりを挟む
「……えっ?」
わたしは、その言葉を信じられずに思わず訊き返す。
今、雪は何て言ったの?
理解が追いつかない。
しようとも思えない。
雪は今、「もうこんなことやめようよ」って言ったの?
信じられなくて、思わず雪の顔を見る。見つめ返されたその瞳には、揺るぎない意思があるように感じられて。それは、雪がもう今までのようにわたしを慰めてくれないことを意味していて。
どういうこと?
雪は、何を言ってるの?
ううん、そもそもこんなことを言っているこの男の子は、本当に雪なの?
ありえない。そうだよ、ここにいるのは雪じゃない。雪はそんな目でわたしを見ない。そんな風に、可哀想な人を見るような、気持ち悪いものを見るような、そんな見下したような視線をわたしに送らない!
なんで、何でそんな風に見られなきゃいけないの? なんで? 何で?
だってその目は、わかるもの。
その目は、わたしが子どもの頃、あの人のことを見ていたのと同じ視線。
あの人が「愛してる」と呪いのように繰り返しながら、その実ただのストレス解消しかしていなかったその様子を恨んで、哀れんで、蔑んで、見下して、嘲って、呪って、悲しんで、嗤いすらも内包した感情を乗せた、冷たくて粘着質な視線。
それって。
どういうこと?
わたしが雪を愛してきたことは、あの人がわたしを使って鬱憤を晴らしていたのと同じってこと?
違う。
違うよ。
そんなの認めない。
だって、わたしは雪のことを本気で愛してるんだから。
雪の笑顔も、声も、肌も、涙も、汗も、全部全部愛してる。雪になら、どんなわたしだって見せられる。雪なら、どんなわたしも受け入れてくれる。わたしだって、どんな雪も受け入れてきた。
愛しているんだよ?
どんなことしたって、それは伝わっている。
どんなことされたって、わたしにはわかる。
わたしと雪は、確かに愛し合っていたんだ。
わかってたんだよ?
雪だって、もうやめよう、って言ってるこんなこと、嫌じゃなくなってたんでしょ?
わかってたよ、段々上手になっていって、段々動きも強くなっていって。されるがままじゃなくて段々雪の方からわたしのことを求めるようになっていたくせに。隠していたって、そんなのはわかってたのに。
どうして?
どうして、そんな嘘をつくの?
雪は、まるで空から降ってくる白い雪みたいに純粋で、無垢で、穢れがなくて、清らかで、正直で、そんな天使みたいな子だったのに。
あぁ、やっぱり外の空気に触れていたからなのかな。
そうだよね、神様に仕えていた本物の天使だって、下界を気にしたせいで堕天したっていうお話、あるもんね。
そっか。
わたしの天使は、もう天使じゃなくなっちゃったんだね。
そっか。
そっか。
じゃあ。
もう、いいや。
わたしは、その言葉を信じられずに思わず訊き返す。
今、雪は何て言ったの?
理解が追いつかない。
しようとも思えない。
雪は今、「もうこんなことやめようよ」って言ったの?
信じられなくて、思わず雪の顔を見る。見つめ返されたその瞳には、揺るぎない意思があるように感じられて。それは、雪がもう今までのようにわたしを慰めてくれないことを意味していて。
どういうこと?
雪は、何を言ってるの?
ううん、そもそもこんなことを言っているこの男の子は、本当に雪なの?
ありえない。そうだよ、ここにいるのは雪じゃない。雪はそんな目でわたしを見ない。そんな風に、可哀想な人を見るような、気持ち悪いものを見るような、そんな見下したような視線をわたしに送らない!
なんで、何でそんな風に見られなきゃいけないの? なんで? 何で?
だってその目は、わかるもの。
その目は、わたしが子どもの頃、あの人のことを見ていたのと同じ視線。
あの人が「愛してる」と呪いのように繰り返しながら、その実ただのストレス解消しかしていなかったその様子を恨んで、哀れんで、蔑んで、見下して、嘲って、呪って、悲しんで、嗤いすらも内包した感情を乗せた、冷たくて粘着質な視線。
それって。
どういうこと?
わたしが雪を愛してきたことは、あの人がわたしを使って鬱憤を晴らしていたのと同じってこと?
違う。
違うよ。
そんなの認めない。
だって、わたしは雪のことを本気で愛してるんだから。
雪の笑顔も、声も、肌も、涙も、汗も、全部全部愛してる。雪になら、どんなわたしだって見せられる。雪なら、どんなわたしも受け入れてくれる。わたしだって、どんな雪も受け入れてきた。
愛しているんだよ?
どんなことしたって、それは伝わっている。
どんなことされたって、わたしにはわかる。
わたしと雪は、確かに愛し合っていたんだ。
わかってたんだよ?
雪だって、もうやめよう、って言ってるこんなこと、嫌じゃなくなってたんでしょ?
わかってたよ、段々上手になっていって、段々動きも強くなっていって。されるがままじゃなくて段々雪の方からわたしのことを求めるようになっていたくせに。隠していたって、そんなのはわかってたのに。
どうして?
どうして、そんな嘘をつくの?
雪は、まるで空から降ってくる白い雪みたいに純粋で、無垢で、穢れがなくて、清らかで、正直で、そんな天使みたいな子だったのに。
あぁ、やっぱり外の空気に触れていたからなのかな。
そうだよね、神様に仕えていた本物の天使だって、下界を気にしたせいで堕天したっていうお話、あるもんね。
そっか。
わたしの天使は、もう天使じゃなくなっちゃったんだね。
そっか。
そっか。
じゃあ。
もう、いいや。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる