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■RINK_007_ユーザーネーム■

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スマホからは、落ち着いた間と、テンポで、
男子でもムラっとくるほどの・・・甘い声・・・。
乙女ゲームの王子キャラ、
CV並みの優しいが聞こえた。

「どうかなアオイ君?」
「死ぬなら 私にその命をくれないかい?」

甘い声とは真逆の鬼畜なワードが屋上に響く・・・。

——「でも なぜピエールがアオイさんに!?」——

CN.incのCEO・・・リアルフィールドの生みの親!
世界有数のカリスマ、ピエール・エンリケが日本の女子高生に電話?
7ヶ国語を話すピエールは確かに日本企業との提携や
M&Aでの企業買収も行っている。
だが今話しかけているのは「日本の女子高生」。

リアルフィールドを生き甲斐にしている僕にとっては、
夢に等しい光景が目の前に広がっている。

アオイさんとリアルフィールドのピエールが、今、
繋がっている———!

でも状況は最悪だ、生き甲斐の1つを失おうとしているタイミングで繋がった。
それに確かにピエールはカリスマだが、ユーザーの7割は男性ユーザー。
日本に限っては1割程度しか女性ユーザーはいない。
ましてや女子高生のアオイさんがリアルフィールドなんて、
———その時、僕の思考を遮るようにアオイの声が聞こえた。

「あのピエール・エンリケ?」

———!?———

アオイさんのかすれた声に耳を疑った。
アオイさんはワードを続ける・・・。

「CN.incのセレブが私に何の用?」

感情も抑揚(よくよう)もない冷め切った声でアオイさんは問いかけている。
この状況に僕はテンパっている。いや!今日はずっとテンパっている。

アオイさんがピエールの事を知ってる!?。
いや!メディアに露出しているピエールの事は知っていても不思議じゃない。
ゲームファンじゃなくても・・・ピエールは有名人だ。

ある情報番組のイケメンセレブランキングでは
ピエールは10年連続ランクインしているし。
ハリウッドでは役者デビューの噂も上がっている。
それに何度か女子がピエールの事を話しているのも盗み聞きした事はある。

僕の友達カテゴリーの男子もピエールがイケメンだ、とか
ピエールくらい金持ちになりたいなどくだらない会話は何度かした事はあるし、
アオイさんが知っていても驚く必要はない。

だが、自分を落ち着かせようと言い聞かす
僕の思考をピエールの甘い声がぶち壊す。

「アオイ君・・・君は」
「リアルフィールのVIPユーザー」
「世界ランキングは10,00.2530,443人中・・・13位」


「・・・だよね?」

———「はぁ!?世界ランク13位!?」———

僕の思考は停止した。アオイさんが———
リアルフィールドのプレイヤー!?

そしてさらに僕の脳みそに手榴弾を投げつける程の
ピエールのワード飛んでくる。

「user nameは ハヤブサ!」

——!?!?!?!?!?!?!?!?!?——

ジンギは自分の耳を瞬時に1000回以上は疑った。
そしてそれと同時に屋上の縁に立つアオイの足、
足首、ふくらはぎ、太もも、お尻、
腰、胸、肩、首、唇、目。
ジンギはF1ドライバーと同じ秒速で視点ループを
何度も何度も繰り返した——!

——「ハヤブサ!?僕と同じクルーのあのハヤブサ!?」——

リアルフィールドは5人1組でクルーになる。

だが、ハイスペックのクルーメンバーに入隊するためには、
絶対的なレギュレーションがある。

国内ランク10位以内、世界ランクは50位に入っていないと、
各ハイスペッククルーに入隊する事はできない。
そして、
僕が隊長を務めるハイスペッククルー・・・

——トロイ——

ハヤブサはこのトロイのグルーメンバー!

アオイは目の色1つ変えず・・・じっとスマホの中のピエールを見つめる。

——「・・・・・・」——
5秒ほど沈黙し、
そしてグロスで輝く・・・アオイさんの薄ピンク色の唇が
わずかに動く。

「そうよ・・私は ハヤブサ」

————!!!!

僕とアオイさんの接点はただの同級生——
それだけだ・・・
と、思っていた!

僕はアオイさんを見つめ続けて・・・7年・・・。
普通を演じる僕にとっては、アオイさんは高嶺の花である事は間違いないが。
それ以前に、
小中高と学校のヒロインに君臨し続けるアオイさんと
必要以上の接点を持つと、僕が目立ってしまう。
だから僕は見つめる事以上の行動は一度も起こしていないと自負していた。
だが・・・

———「僕はめちゃくめちゃ接していた」———

ハヤブサと僕はリアルフィールドでは戦友だ!
付き合いは中学3年から・・・
もう3年はトロイで一緒に戦っている。

それにリアルフィールドでは「音声チャット」でリアルタイムで会話ができる。
その音声は言語を初期設定さえすれば、
日本語→英語
英語→日本語
7カ国以上の翻訳システムを組み込んである。

僕は見事に騙(だま)されていた・・・!

ハヤブサは男性で母国はイギリス。
クールでドライ、口数も少なく人に必要以上な詮索(せんさく)はせず
僕は一緒にいてとても居心地がよかった。

たまにトロイクルーの隊長である僕の言う事を聞かずに突っ走る所があるが、
確実にミッションを遂行する———

そしてハヤブサが入隊して僕達トロイは・・・

———1度も戦死していない。———

だが、信用していたハヤブサは・・・「アオイさん」だった!

ネカマいや・・・ネナベ!
僕は先入観の塊(かたまり)でハヤブサを見ていた・・・いや。

———どう考えてもアオイさんと結びつくわけがない!———

僕の前方2.7メートル、左に45度。
立ちすくむアオイさんは顔色一つ変えず・・・
スマホのピエールに問いかける。

「だから何?私は今から死ぬの」

アオイは再び屋上の縁から、生気のない目で地上を見つめる・・・
そしてアオイは冷めきった声でかったるそうに一言・・・

「もう切るわ・・・」

そのワード聞いたピエールは、
今、1人の少女がスマホの向こうで自殺をしようとしている。
その状況下でも動じる事なく
いつもの優しく甘い声で話す。

「どうせ死ぬなら その前に」
「君のユーザースキルを発揮してみないかい?」

額に汗が吹き上げてきた僕は、右手で額の汗をぬぐい、
その濡れた手をズボンで拭く・・・
そして、僕はピエールが発したワードを聞いて思った。

——「こいつ 死ぬのは止めないのか!?」——

第一言っている意味がわからない!
「君のユーザースキルを発揮してみないかい?」
———誰が聞いても鬼畜な返答だ!

今にも死のうとしている人間に対して、
世界のカリスマ、世界の成功者がゲームの事を話している。

アオイさんの背後で見守る僕は容易にアオイさ・・・いや。
ハヤブサの行動を察知できた・・・

——アオイさんは右手に持つスマホの
<通話終了>をタップする——

その通り、アオイの右の親指が少し動くのが見えた。

そして僕の思考は本来のミッションに注力した。

——「少し距離はあるが・・・通話終了のタイミングで
僕はアオイさんの左手を掴み多少強引にでもフェンスの内側に引っ張る!」——

——ドクンドクン・・・——

僕はアオイさんの親指のみに集中していた・・・
そしてアオイさんの親指がスマホ画面をタップしようとした瞬間——

———ピピピピ———
スマホからアラームっ!?が屋上に鳴り響く。

そしてその直後、僕は自分の目を疑った!

それと同時にアオイさんの背中が背後に傾く、
僕は瞬時にアオイさんの表情を見た。

僕と同じく・・・自分の目を疑っている表情だ・・・。
アオイさんも僕と同じ感情である事は間違いない。

アオイさんは自分のスマホを持つ右腕をめいいっぱい伸ばす。
そして60度ほど上空を見上げる・・・
そして僕も同じタイミングでアオイさんが見つめるモノを見つめる。

——スマホ画面から、ピエール・エンリケが飛び出ててきた——

「・・・!?」

スマホ画面に立つようにピエールの全身が飛び出ている!?

もちろん全身カラーで生身の人間と変わらないピクセル。
僕たち二人の前に突如現れたピエールの肌に僕は見とれた。

——温かみを感じる・・・

おそらく等身大である事は間違いない。
だが、最新のスマホでそんな機能もアプリもリリースされていない———

動揺を隠せないアオイは・・・
たった1ワードだけ呟いた・・・

「なに・・これ?」

僕も同感だ!

ピエールの視線は下にいるアオイさんを見つめた・・・。
青く輝く鮮明な青い瞳・・・。
シルバーアッシュのロングヘアーも・・・鮮明に描写され
下を向いたと同時になめらかに動いた・・・。

そしてピエールは優しく微笑み・・・
アオイさんにとって衝撃的なワードを発する——

「アオイ君 君のお姉さんは生きているよ!」

アオイはそのワード聞いた瞬間、手に持つスマホが震える。
確実に動揺しているアオイがジンギの目に映る。

僕は動揺しているアオイさんを一度も見た事なかった。
だがそんな思想を忘れさす程、アオイさんの表情は瞬時に動揺から・・・

怒りの表情に変わった——

「ふざけるなぁぁ!!」

——「!!!!」——

僕はアオイさんの怒号に思わず背後に退いた!

だがその怒号を聞いたピエールは動じる事なく
・・・ニコッと微笑み

——僕達二人の1年間の夏休み・・・——
そのスタートボタンを押すワードをアオイさんにぶつけた。

「君のお姉さんは・・・」

「リアルフィードの中で生きているよ!!」

屋上に張り詰めた空気が流れる・・・
そして僕は、誰もが思い浮かぶワード頭を巡った・・・

———「何言ってるんだ こいつ?」———

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