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本音

椿が見ていた父

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 父はお兄ちゃんが言った通り弱い人だ。
 ちゃんとは聞いていなかったが父は子供の頃家族、親戚から暴力を受けていた。唯一助けてくれたのは隣の家に住む幼馴染家族だけだった。助けたと言ってもただ『大丈夫?』と声をかけられたぐらいだが父にとってそれは嬉しい言葉だったらしい。その言葉に救われて父は暴力に耐えていた。親が亡くなって少しは改善すると思った。でも親の暴力を見て暴力で育った兄は何も変わらなかった。父に暴力振るうことが生活の一部だと思っている兄にとって父はただのサンドバッグ。父は耐えることを諦めた。助けを求める。
 「助けて」
 その一言で兄の人生は簡単に終わった。父は後悔などしていないと言った。
 兄の人生を潰した後父は路頭に迷った。ずっと家族に閉じ込められていた身。外の事など知らない。親戚も頼れない。父は何もする事ができない。金がない、人脈もない、何もない。ただお腹が鳴りながら歩き続けた。限界だったのだろう。父は倒れた。その時助けてくれたのが母だった。母は父に何があったのか知っていた。それで父を探していてやっと見てけたらしい。母は父を介抱した。母は父に頭を下げた。
 「私の家族が酷いことしてすみませんでした。何か私に出来ることはありませんか?」
 その一言で父は気がついた。母は父に暴力を振るって来た親戚の子供だったのだ。母も父が受けている暴力を見て育った一人だったが母は道に迷わずにちゃんとした人生を送っていて父は感動したらしい。父は母に言った。
 「そのままでいて下さい。兄のように暴力で人を支配しようとしないでください。」
と。

 そんな会話を父とした覚えがあった。その後父は私に言った。
 『今度は皆んなで桜。見にいこうな。泉華も誘って・・』
 そう言ったんだ。ちゃんと言った。私に・・
 『泉華をお兄ちゃんを傷つけてしまったらお前がお兄ちゃんを助けて俺を責めてくれ。』『自分じゃ自分を押さえられないんだ』『お父さんを止めてくれ』
 私に言った。
 『どうすれば泉華に謝ることが出来る?泉華は俺じゃない。泉華は・・・俺じゃない。あいつにあいつに暴力で支配しないでって言ったはずなのに・・どうして俺がこんなことしているんだ?俺はまだあいつらに囚われているのか?そんなはずない。俺は家族を捨てた。名前だって・・変えた。苗字も・・・俺は全部変えた。だがらあいつらと同じじゃない。暴力は俺の嫌いなもののはずなのに・・俺は何をしているんだ?俺が・・自分の子供に暴力で支配しようとしている?・・・そんなはずない。そんなはずはない。・・・椿・・俺は何処で間違えた?教えてくれ・・』
 『泉華には『私に触れるな』と言う意味を教えたが本当はな『誰とでも仲良く心が開けるような子』って意味なんだ。もし伝える時があったら教えてやってくれ』
 父は後悔したと言っていた。全部のことに。
 あの時、助けを求めるべきではなかった。助けを呼んだから今の俺が出来てしまっている。
 『ごめんな椿。ダメな父親で・・ごめんな。もし・・』
 最後の会話にそう言った。その先は聞くことは出来なかった。私が言ってしまった。
 「お父さんは・・どうして私に言うの?お兄ちゃんに直接言えば解決しないの?」
と。父は苦笑いをして私の頭を撫でてから出かけて行った。
 そしたら父は死んだ。

 私のせい?
 私が家族を壊した?
 私が・・・・・・・
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