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2.ジェイ
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しおりを挟む次の日、昼前に男牢に新入りが入ってきた。
「おれはジェイ、十六歳。よろしくう?」
口をくちゃくちゃとさせて、ガムでも咬んでいるのだろうか?勝手に食物を持ち込むことは、禁止されているはずなのに。
常にゆらゆらと動いて、ふいにしゃがむ姿にも品のなさがにじみ出ている。
シアンとは頭一つ背丈がちがって、筋肉質ではあるがかなり小柄だった。金色の髪が背中近くまで伸びていて、後ろ姿は少女にさえ見える。
ミーナは見た瞬間、牢の一番遠い壁ぎわへと移動した。
シアンとはちがうタイプだった。
ミーナとしては、あちこち目ざとく見回る動作も気にくわなかったかもしれない。
「ずいぶん長い髪だな?」と、シアンが言う。
「床屋行けねえから長いだけ。おれをなめたら痛い目見るよーん?」
そうすごむと、シアンとは直角の場所に座る。
行儀悪く足を組み、ひざを立てた位置から上目越しに見た。
「で、何をやらかしてこんなところまで来るはめに?あんたと、あっちの女」
あごで女牢のミーナをしゃくった。
「どうでもいいことだろ。どうせ三人とも、数日で終わる命なんだし」
「そうか?もしかしたらアレになるかもしれねえじゃん。”温情”」
にやっとミーナの方も見た。
「おい、そこの彼女?何をして死刑なんてなることになったのさあ?」
ミーナは顔を背けたまま、答えなかった。
「なあ、答えろよ?」
そのまま無視するかと思えたが、甲高い声だけが響いた。
「……大量殺人よ」
明かりとりの窓を見上げたまま、それだけ答えた。
シアンは、ミーナが答えたことに驚いた。
自分には明かさなかったのに、嫌悪を抱く相手へは教えるのか。
「そっかあ。へえ。女だてらにやるねえ。おれと一緒だあ!」
ジェイはくっくっと下品に笑った。
「じゃあさ、あんたも期待してるわけ?”温情”」
ずっと咬んでいたものを、指でひねり出すように口から出した。
壁のへこみに、塗り込むように貼った。やはりガムだ。
「よく咬んでて平気だったな、普通はそんなものでも罰を受けるぞ?」
「罰ならもう受けたさ。ほら」
背中をめくりあげると、そこに蛇のような傷跡が何本か走っていた。拷問の傷が癒えきれずに、生々しく残っている。
「最後くらい、好きなことやらせてもらうだろ。痛さなんてへでもねえ」
ジェイは高笑いをした。
すでに頭のネジが飛んでいるかもしれなかった。じゃないと、この状況で笑い続けることはできないだろう。まともな会話は無理だ。
シアンはそう腹をくくった。
いや……自分も、ミーナだってここにいる以上まともなんかではないのだが。
さらにジェイは目を白黒させながら、シアンとミーナを見比べた。
「あれえ、あれれれ?ねえ、もしかして……おれ、お邪魔だったかなあ!」
ひときわ明るい声で叫んだ。
これ以上、からかわれるのもしゃくだ。シアンは無言を貫く。
どうせミーナは、会話には入ってこないだろう。
「そっかそっかあ、ごめんな?せっかく二人っきりでラブラブだったのに?」
「うるさい」
ミーナも思っているだろう言葉を、先にシアンが吐いた。
面倒なやつが入ってきた。イカレテるくせに、勘だけは鋭い。
それでも……明日になって誰が残っているかはわからない。ジェイが最後に残るかもしれない。順番からすれば、それはありえる話だ。
牢屋越し、しかも新入りもいる中ではもう昨日のような会話はできない。ミーナとの心震えるような関わりは、昨夜たった一度だけだったんだろう。
神が罪深い自分に、情けとして使わした温かな交流。
シアンは、今まで犯してきた罪を全く忘れたかのような自分に驚いた。
何を言ってるんだ。おれが神を語るなんて、それこそどうかしている。元々多くの人をあやめてきたのだ。もっと前に八つ裂きにされたって不思議なかった。
なぜこうなったのだろう?ミーナと話したからか?
戸惑いを感じながらも、ミーナを見ると温かい気持ちになることに気づく。
不思議な子だ。
「ねえ、あんたはどうなの?何をしてここに来たのさ?」
ジェイはどうしても問いただしたいらしい。シアンは答えるべきか迷った。
ミーナに知られたいか、それとも隠したまま行くか。
そっぽを向いているが、彼女は聞いている。
「おれは……生きるためにたくさん人を殺した。仕方なかったと言えば言い訳だが、毎回理由はあったんだ」
「へえええ?ねえ、聞いた?彼女お?」
ジェイも気にしていたのは、ミーナの反応だったらしい。
本当に無駄に気が回るやつだ。人の機微にざくざくと切り込んで荒らしにくる。
「聞こえたわ。だったら、あんたも言うのが礼儀じゃない?」
ミーナがやっと牢の柵へと向き合った。
顔を確認するかのように、含み笑いのジェイが対峙する。
「あはあ、おれ?おれはねえ……そう。趣味でやりすぎたからだよ」
趣味。答えになっていない気もしたが、もうそれで十分だった。
元々実のある話をできるとは思っていなかったから、シアンも聞き流した。
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