【完結】知られてはいけない

ひなこ

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十二・誓いの後に

誓いの後に(1)

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 ばらけた後、わたしは一人で校庭こうていの大通りを歩いた。
「あれ?」
 仮想空間かそうくうかんには、一見いっけんあるように見えても近づくと入れない場所ばしょもある。でも、今日はそこの通りは入れたのだ。じゃあ、歩いてみようと思った。
 ここは現実げんじつ世界ではない。わたしたち十五人は、この空間にじ込められている。すでに何人かバトルされて消えた。消えた人たちはどうなったんだろう。
 現実げんじつに帰れないなら、やっぱり死んでしまうんだろうか?
 と、向こうからだれかが歩いてくるのが見えた。
 それも二人。男子と女子が一人ずつ。
 一人は……準(じゅん)だった。制服せいふくのブレザーを少し乱暴らんぼう羽織はおって、大股おおまたで。でももう一人。それも見覚えがあった。
「あら!偶然ぐうぜん会いましたね?」と、わたしに向かって言ったのは宮内紗英(みやうち・さえ)だった。
 ずきん。
 胸に何か、さった気がした。

「加川(かがわ)さん。宮内さんと一緒いっしょだったんですか?」
 そっけなく聞くわたし。
「あ。いや。そこで会っただけだが?」準は気にしていない口調くちょうだった。
「そうです、そうです。わたしが見つけて、一緒いっしょにここまで」
 ねっ、と見上げる紗英。妹みたいな人なつこさ。
「一緒にってほどは歩いてない。たまたまだ」とは準。
 何?わたしは何がいやなんだろう?
 胸にさったのは、何の思い?
「で、遠野(とおの)さんはどこへ?」紗英の、さぐるような目つき。
「あ、その辺を散歩さんぽしてたの。今日は歩ける場所ばしょが増えた気がして」
 わたしは心にもないウソをつく。
 図書館としょかんに行ってたことは言えない。
「ふうん?そうなんですかあ?朝食終わってから、ずっと?」
 つっかかるなあ、この子。
「ちょっと部屋に戻って休んだ。それからだよ」
 紗英は三村一紀(みむら・かずき)におそわれたところを、準に助けられたのだ。準をたよりにするのはわかる。恩人おんじんでもあるし、頼りがいある……目下最高点さいこうてん優勝候補ゆうしょうこうほ。わたしも紗英を助けようとして、それでもバトルできずに準に役割やくわりを押しつけた。
 紗英みたいに、ためらいなくれてしまえばいいのに。
 わたしにはできない。
 図書館で話したことは、わたし含めてあの六人だけの秘密ひみつだ。

 今日の”新参者しんざんものには気をつけること”を見てからはますます言えなくなった。
 けどわたしの中では、準は前からの知り合いというくくりになっている。
 だから、ちらっと教えてしまいたくなる。

 だめだ。図書館組としょかんぐみからすれば準だって新参者しんざんものなんだから。

 ”ルール通りに勝ち残ってはいけない。”

 そっちも気になる。ルール以外の勝ち方が探せるのかどうか?
 たしてどういう方法を取れば、一人きりでなくみんなをすくえるのだろうか?
「どうかしたの?遠野さん?」紗英にわれて、われに返る。
「ううん、何でもない。また後で」
 準を見ないまま、わたしは別の道へそれた。
 なぜなら、紗英が一緒いっしょにいるところを長く見ていたくなかったから。
 おかしいな、なぜわたしがそんなことを思う?
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