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八・告白はこわい
告白はこわい(3)
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「どうした?」
階段から上がってきたのは、加川準(かがわ・じゅん)だった。
準は、目の前に大きくふくらんだ繭を見る。
「中に、今まさにバトルをしてる人たちがいます!」
わたしは、鼻をすすりながら答えた。
「これが、バトルで現れる結界なのか」
準も、おどろきの目で眺めた。
っていうことはきっとこの人も、バトルをしたことがないんだ。
わたしは、ほっとした。
「だれなのかわかるか?」
「たぶん中三の男の人。ひとりだけいたでしょう?その人が、女の先輩にバトル宣言しました」
準は繭の外側をさわって、何度か叩いた。カンカン、と鉄のような音。
「大した固さだな。まるで金属だ。外から邪魔することもできないし、中の様子もわからない」
「ええ。本当に」
中でどんなことになってるのか、わたしたちは知ることもできない。
まさに、二人だけの戦いになってるんだ。
「こんなことが、あちこちで起こっているんですか?」
「マスターがあおっていたからな。やるやつは出るだろう」
と、急に繭全体がまばゆい光を放ち出す。
ぐにゃり、と音を立てて穴がいくつも空いて。鉄のようなかべが、糸に戻りほぐれ始める。
細い糸の群れへとばらけ、数も減って……最後には消えた。
姿を現したのは、座り込んだライアンただ一人。
ひとりきり。
「ってことは、まなみさんは……」
ライアンは夢から覚めたみたいに、何度かぶんぶん、と頭を振ってこっちを見た。
わたしも準も、逃げるべきかわからず、固まった。
「……見たか?おれは勝ったぞ!これがバトルと言うものか!なるほどな、ははは!」
勝ち誇ったように、こぶしをぐっと握りしめてガッツポーズ。
「そうか!こうして勝って行けばいいのか?わかった!なるほどな!」
ライアンは高笑いをし、すっかり舞い上がって見えた。
わたしはめまいを覚えて、しゃがんでしまった。
「おい、遠野(とおの)?しっかりしろ!」
目の前がぼやけていく。気が、遠くなりそう。
「具合悪いのか?おい?遠野!」
わたしを揺さぶる準の声が、小さくなっていく。
ここは学校と言う名のジャングル。
ゲームマスターの円が陥れた、呪われた仮想空間。
食うか食われるか、食われる前に食わなければいけない。弱肉強食の世界。
わたしは人間でいたいのに、かなわなくなっていく。
階段から上がってきたのは、加川準(かがわ・じゅん)だった。
準は、目の前に大きくふくらんだ繭を見る。
「中に、今まさにバトルをしてる人たちがいます!」
わたしは、鼻をすすりながら答えた。
「これが、バトルで現れる結界なのか」
準も、おどろきの目で眺めた。
っていうことはきっとこの人も、バトルをしたことがないんだ。
わたしは、ほっとした。
「だれなのかわかるか?」
「たぶん中三の男の人。ひとりだけいたでしょう?その人が、女の先輩にバトル宣言しました」
準は繭の外側をさわって、何度か叩いた。カンカン、と鉄のような音。
「大した固さだな。まるで金属だ。外から邪魔することもできないし、中の様子もわからない」
「ええ。本当に」
中でどんなことになってるのか、わたしたちは知ることもできない。
まさに、二人だけの戦いになってるんだ。
「こんなことが、あちこちで起こっているんですか?」
「マスターがあおっていたからな。やるやつは出るだろう」
と、急に繭全体がまばゆい光を放ち出す。
ぐにゃり、と音を立てて穴がいくつも空いて。鉄のようなかべが、糸に戻りほぐれ始める。
細い糸の群れへとばらけ、数も減って……最後には消えた。
姿を現したのは、座り込んだライアンただ一人。
ひとりきり。
「ってことは、まなみさんは……」
ライアンは夢から覚めたみたいに、何度かぶんぶん、と頭を振ってこっちを見た。
わたしも準も、逃げるべきかわからず、固まった。
「……見たか?おれは勝ったぞ!これがバトルと言うものか!なるほどな、ははは!」
勝ち誇ったように、こぶしをぐっと握りしめてガッツポーズ。
「そうか!こうして勝って行けばいいのか?わかった!なるほどな!」
ライアンは高笑いをし、すっかり舞い上がって見えた。
わたしはめまいを覚えて、しゃがんでしまった。
「おい、遠野(とおの)?しっかりしろ!」
目の前がぼやけていく。気が、遠くなりそう。
「具合悪いのか?おい?遠野!」
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わたしは人間でいたいのに、かなわなくなっていく。
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