籠の中の天才

中岡 始

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第5幕

暴走するシャドーネットワーク

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仮想空間内で揺れる影山のアバターが、黎を冷たく見下ろした。その背後では、無数のデータが暴風のように渦巻き、シャドーネットワーク全体が不気味に光を放っていた。

「君たちがここまで迫るとは……正直、予想以上だったよ」

影山の声は静かだが、明らかに底知れない怒りを孕んでいた。

「だが、これで全て終わりだ。私の手で築き上げた秩序が、いとも簡単に崩れると思うな。ならば、全てを灰にしてやる」

その言葉とともに、影山のアバターが両腕を広げ、背後の巨大なサーバータワーが光を放ち始めた。

---

「何をしている……?」

黎がセルフィアに問いかける。

「シャドーネットワークが暴走モードに移行しました。影山が制御を放棄し、全システムを崩壊させる指令を実行しています」

セルフィアの冷静な声が、状況の深刻さを端的に伝える。

「世界中の主要システムに大規模な干渉が開始されました。このままでは、通信、金融、医療などのインフラが停止し、甚大な被害が発生します」

「そんな……!」

黎の表情が硬直する。影山の狂気がもたらす結末の重さを理解し、指先が止まりかけた。

---

「これが私の切り札だ」

影山のアバターが冷たく笑う。

「私が築けない秩序ならば、誰にも築かせはしない。私のシャドーネットワークが、世界中のシステムを支配し、その後に残るのは混沌だけだ」

黎は歯を食いしばり、キーボードを叩いた。

「そんなこと、させるもんか!」

セルフィアの解析データを基に、シャドーネットワークを止めるための攻撃プログラムを実行しようとするが、データの嵐がそれを遮断する。

「攻撃が通らない……!?」

---

「黎、どうなってる?」

翔が通信越しに叫んだ。情報保安庁のモニターにも、世界中のシステムに異常が広がる様子が映し出されていた。

「影山がシャドーネットワークを暴走させた。これ以上進めない……!」

黎の声には焦りが滲んでいた。その時、セルフィアが警告を発した。

「黎さん、シャドーネットワークのデータ負荷が、こちらのシステムにも影響を与え始めています。安全性のため、いったんシステムを停止する必要があります」

「駄目だ、今止まったら……!」

黎の必死の叫びに、セルフィアが短い応答を返す。

「判断を委ねます」

---

突然、黎の端末に異常が発生した。モニターにエラーコードが次々と表示され、セルフィアのアイコンが薄れ始める。

「セルフィア!? しっかりしてくれ!」

黎は慌ててキーボードを叩き、システムを復旧しようとする。しかし、セルフィアの反応は徐々に鈍くなっていった。

「黎、システムに重大な負荷がかかっている。このままではセルフィアが……!」

翔の言葉が通信越しに届くが、黎はそれどころではなかった。

---

「セルフィア、持ちこたえてくれ……!」

黎は必死に呼びかける。その声に、セルフィアが微かに応答した。

「黎さん……必ず、守りきってください」

その言葉を最後に、セルフィアのアイコンが完全に消えた。仮想空間も一瞬で暗転し、黎の端末が沈黙に包まれる。

---

「黎、聞こえるか!?」

翔が叫ぶが、黎はうつむき、拳を握りしめたまま答えない。セルフィアという最大のパートナーを失った現実が、彼の胸に重くのしかかっていた。

「まだ終わってない……」

小さく呟くと、黎はゆっくりと顔を上げた。その瞳には、消えることのない強い意志が宿っていた。

「翔、あかりさん、セルフィアが残したデータを使って、最後のプログラムを完成させる」

「本気か……? 今の状況で?」

翔が驚くが、黎の決意は固かった。

「セルフィアが守ろうとした世界を、僕が守る。影山の計画を止めるまで、僕は諦めない」

---

影山の仮想空間内では、彼のアバターが勝利を確信したように笑みを浮かべていた。

「これで終わりだ、Luminous。私を超えることはできなかったようだな」

しかし、その時、再び黎の姿が仮想空間に戻ってきた。

「終わるのはあなたの計画だ」

黎の声が、影山の笑みを凍りつかせた。影山が背後のデータの動きに目を向けると、そこには新たな攻撃プログラムが展開され始めていた。

「何だと……!?」

影山の驚愕の声が仮想空間を震わせる中、黎は次の一手を放つ準備を始めた。
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