籠の中の天才

中岡 始

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第4幕

技術者たちの戦場

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「ログインを確認。準備完了しました」

翔は情報保安庁の一室で端末を操作しながら、黎に報告を送った。モニターにはアルカディアのネットワーク構造が立体的に表示されている。その複雑な構造は、普通のエンジニアでは到底理解できないものだった。

「こっちも準備できた。中央サーバーの侵入ルートを送る」

黎の声が通信越しに届く。その声は冷静で的確だった。自宅の部屋からセルフィアを通じてネットワークの解析を続ける黎。画面に浮かび上がるアルカディアのセキュリティ層を次々と突破していく。

「さすがだな、Luminous」

翔が短く呟く。だが、その瞬間、彼のモニターに赤い警告が表示された。

「……通信が傍受されている?」

翔が操作を続けると、端末にメッセージウィンドウが現れた。そこに映し出されたのは見慣れた名前だった。

**影山玲司**

「君の裏切りは予想の範囲内だ、黒瀬」

モニターに影山からのメッセージが表示される。その簡潔で冷徹な言葉が、翔の心に重く響いた。

---

「影山……!」

翔はその名前を見つめながら拳を握りしめた。続くメッセージが画面に表示される。

「だが、その幼稚な計画で私を倒せると思うのか? 君は私の技術の足元にも及ばない」

その挑発に、翔の眉が険しくなる。だが、すぐに冷静を取り戻し、指をキーボードに走らせた。

「あなたの時代は終わりだ。僕たちの技術で、あなたの野望を止める」

翔が反論すると、影山のメッセージが即座に返ってきた。

「ほう……“僕たち”だと? 黎と手を組んだのか。だが、それでも私には届かない。技術は力だ。そして、力のない者は淘汰される。それが世界の理だ」

「違う。技術は力じゃない。人を支えるための道具だ。その使い方を間違えたあなたが、淘汰されるべき存在だ」

翔の言葉に影山は沈黙するが、すぐに別のメッセージが現れた。

「ならば証明してみろ。だが、覚えておけ。このネットワークは私の領域だ」

---

「影山が攻撃を仕掛けてくるぞ!」

翔は通信越しに黎に伝えた。次の瞬間、モニターに複数の警告が表示される。アルカディアの防御システムが稼働し、翔の端末に一斉攻撃を仕掛けてきたのだ。

「この程度で僕を止められると思っているのか……!」

翔は即座に防御プログラムを展開。影山の攻撃を解析し、遮断するためのコードを走らせた。だが、その攻撃は尋常ではない精度を誇っていた。

「翔、大丈夫か?」

黎の声が響く。翔は操作を続けながら短く答えた。

「問題ない。影山の攻撃は読めている。だけど……」

「だけど?」

「これは防御システムの一部だ。影山が全力で来たら、こっちが持たない」

翔は手を止めずに答えた。その時、黎の声が一層冷静に響いた。

「なら、防御を引き受けてもらう。僕が直接、中枢にアクセスする」

「分かった。影山の注意を引きつける」

翔はさらに攻撃を受けながらも、影山に向けて反撃プログラムを実行した。

---

「私を止めようとするか、黒瀬?」

影山の声が通信に直接流れた。その冷笑が、端末越しでも伝わる。

「だが、その程度では私の防御を突破することは不可能だ。何度でも跳ね返してやる」

「それはどうかな」

翔はコードを書き続けながら応じる。彼の手元には、黎から提供されたセキュリティの脆弱性情報が表示されていた。それを元に影山の防御システムを混乱させるプログラムを実行。

「解析完了……これで防御システムが混乱するはずだ!」

---

その瞬間、影山のモニターにも異変が現れた。彼のシステムに次々とエラーが発生する。

「何をした?」

影山の声が険しくなる。翔はそれを聞きながら、さらに次のコードを打ち込んだ。

「これが僕たちの力だ。あなたの独裁は、ここで終わる」

影山はしばし沈黙したが、やがて冷たい声で言い放った。

「面白い……だが、これが終わりだとは思うな」

---

黎は自宅のモニターを見つめながら、セルフィアに指示を出していた。

「翔が引きつけてくれている今がチャンスだ。セルフィア、中央サーバーへの侵入ルートを特定してくれ」

「了解しました」

セルフィアの声が応じる。モニターには中央サーバーの構造が表示され、黎の指示で侵入が開始される。

「もう少しだ……翔、持ちこたえてくれ」

黎はキーボードを叩きながら呟いた。

---

翔と黎の連携によって、影山のシステムに次々とエラーが発生していく。影山の怒りの声が通信越しに響く。

「黒瀬、Luminous……君たちがここまでやるとはな。しかし、これで全て終わるわけではない」

影山は最後のカードを準備し始める。その背後には、さらに大きな野望が待ち受けていることを、彼らはまだ知らなかった。
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