三条美玲の炎上

中岡 始

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朝、チェックアウトの時間が近づく中、美玲は昨夜の怒りをまだ引きずっていた。隼人に会えなかったこと、VIPとしての要求が通らなかったことへの不満が積もり、冷めない苛立ちが彼女の表情に現れていた。いざフロントに向かうと、そこに待っていたのは、隼人ではなく彼の同僚である田中翔だった。

「おはようございます、三条様。チェックアウトの手続きを担当させていただきます」

と、翔は穏やかで丁寧な口調で挨拶をした。

しかし、美玲はすぐに顔を曇らせ、「また隼人さんじゃないの?」と、不満げに声を上げた。

翔は少し緊張した様子を見せながらも、冷静に応じた。

「佐々木は別のお客様の対応に入っておりまして、申し訳ございませんが、本日は私が担当いたします。ご滞在はいかがでしたでしょうか?」

その言葉に美玲の不満が爆発した。

「いかがも何も、VIP扱いなんて全くされなかったわ。私が指名した隼人さんが来れないだなんて、こんな対応を受けるためにここに来たんじゃないのよ」

と、彼女は声を荒げ、翔に不満をぶつける。

翔はプロフェッショナルな態度を崩さず、深く頭を下げて、

「三条様、今回のご滞在にご不満を抱かれたこと、大変申し訳なく存じます。今後のサービス向上のためにも、貴重なご意見としてしっかりと受け止めさせていただきます」

と、誠意を込めて謝罪を続けた。

しかし、美玲の苛立ちは収まらず、冷たい視線を翔に向け、「私がこんな風に扱われるなんて、信じられないわ」と吐き捨てるように言い、最後には

「また来るわ。次はちゃんと隼人さんに会わせてちょうだい」

と冷ややかに言い残し、振り返ることなく宿を後にした。

翔はその背中を見送りながら、苦い表情を浮かべつつも、最後までフロントのプロフェッショナルとしての姿勢を崩すことなく深く頭を下げた。
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