三条美玲の炎上

中岡 始

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翌朝、隼人は昨夜の出来事についてフロントチーフの高橋諒太に相談することを決意した。美玲からの誘いにプロとしての距離を保って対応したものの、彼女の期待が今後さらにエスカレートする可能性を感じ、不安が頭を離れなかったのだ。

高橋は、隼人から話を聞くと、真剣な表情で頷きながら言った。

「佐々木、話してくれてありがとう。君が冷静に対処してくれてよかったが、これは少し複雑な状況だね。三条様は重要なお客様だが、君に対して個人的な期待を抱いているようだ。このままでは、君にもホテル全体にも影響が出かねない。すぐに総支配人に報告して、対策を検討する必要があるな」

高橋はすぐに総支配人の松永洋介に連絡を取り、三条美玲の現在の状況と、昨夜の隼人の対応について詳細に報告した。松永はこの報告に慎重な態度を示し、三条が影響力のあるインフルエンサーであることも踏まえ、ホテル全体のブランドやスタッフに対する過度の期待を防ぐ必要があると感じた。

「なるほど、高橋君。三条様が特別な期待を抱いている以上、放置しておくわけにはいかないね」

松永は一度深く息をつき、慎重に言葉を続けた。

「これはホテル全体のイメージにも関わる。佐々木君のプロフェッショナルな対応を続けるとしても、彼女の要望がエスカレートしすぎないように工夫が必要だ」

松永はしばらく考えを巡らせた後、対応方針を固めた。そして高橋に具体的な指示を出し始めた。

「まず、佐々木君には引き続きプロフェッショナルな対応を徹底してもらおう。三条様からの個別のリクエストには、極力他のスタッフが対応する体制を整えよう。それでももし、彼女が佐々木君を名指しで要求する場合には、私が直接対応することも視野に入れる。ホテルの立場を明確に示しつつ、三条様にはご満足いただけるよう最善を尽くそう」

「分かりました、総支配人」と高橋は頷き、さらに続けた。

「佐々木君には、これまで通り距離を保って対応するように注意を促します。他のスタッフには、三条様への過剰な個別対応に注意を払うように伝え、必要に応じて私が調整します」

松永は高橋の言葉に頷きながら付け加えた。

「そうだね、高橋君。特に、三条様が佐々木君との個人的な関係を期待しているかのような投稿が、外部からも見受けられている。このまま行くと、SNSでの誤解がさらに広まる可能性があるから、そこも注意しながら対応を進めよう」

高橋はこの指示を受け、隼人に改めて慎重な対応を促すとともに、他のスタッフにも三条美玲に対するプロフェッショナルな距離感を徹底するよう周知した。隼人も再度気を引き締め、今後の対応には特に注意を払うことを心に誓った。ホテル全体で万全の体制を整え、三条美玲の滞在が今後のトラブルを招かないよう慎重な姿勢で臨むことを決意した。
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