13 / 41
13
しおりを挟む ――結婚から約一年後。
理仁と結婚しても日常生活に特に変わりのない真彩はいつも通り家事に勤しんでいた。
悠真は小学校へと通い出してから周りの友達の影響もあって朔太郎や真彩にベッタリという事も減りつつあり、最近では強くなりたいと言って空手を習い始めていたりする。
「姉さん、そろそろ買い物行きますか?」
「あ、うん、そうだね。今日は悠真の習い事の日だし、帰ったらすぐおやつを食べられるように準備しなきゃだから今のうちに行こうか」
今日は買い出しに行く日とあって、悠真が帰宅する時間までに済ませてしまおうと買い出しの付き添い担当でもある朔太郎が真彩に声を掛けていざ出掛けようというその時、
「うっ……」
「姉さん?」
「ご、ごめん、ちょっと気分が……」
急な吐き気に襲われた真彩は心配する朔太郎の横を通り過ぎると急いでトイレに駆け込んだ。
実は数日前から度々吐き気に襲われていた真彩。
初めは季節の変わり目で体調を崩したのかもと思ったりしていたものの、熱や風邪の症状がない事、ふと思えば月のものが暫く来ていない事に気付く。
「……これって、やっぱり……」
悠真を身篭った時にも同じような事があり、恐らく妊娠しているのではと直感した。
「……とりあえず、調べてみないとね」
悠真の時は初めての事で戸惑いや不安しか無かったものの、二度目ともなると慌てたりはしない。
トイレから出て部屋に戻った真彩は心配する朔太郎に笑顔を向け、
「ごめんね、もう大丈夫だから行こうか」
「姉さん、具合が悪いなら俺一人で行きますから、姉さんは休んでてください」
そう声を掛けるけれど、具合が悪いなら一人で行くと朔太郎が言う。
「ううん、本当に大丈夫。私も買いたいものがあるから一緒に行かせて?」
「……姉さんが、そこまで言うなら……」
本来ならばお願いしたいし有難い申し出ではあるものの、流石に検査薬を買って来てと頼めるはずもない真彩。
「けど、絶対無理しないでくださいよ?」
「うん、約束するね。ありがとう」
何とか朔太郎を説得して一緒に出掛けることになった真彩は、朔太郎の運転する車でいつものスーパーへと向かう事になった。
その夜、
「……やっぱり」
悠真を寝かせて落ち着いた真彩は昼間買ってきた検査薬を使ってみると、思っていた通りの結果になったのだ。
「……でも理仁さんには、きちんと病院で確かめて貰ってから伝えよう」
実は今、理仁は仕事で毎日帰りが遅く、朝も早い。
何でも傘下組織で問題が発生したり経営の方でも様々な問題を抱えているらしく、常に忙しそうにしていてゆっくり話す時間が取れていない状況の中、万が一間違いだったりして迷惑を掛けたくないという思いから今はまだ話せないと考える真彩。
「とりあえず早めに病院に行って、検査してもらおう……」
そう決めた真彩は今日も遅い理仁の帰りを待ちながらソファーで眠ってしまうのだった。
翌日、真彩が目を覚ますといつの間にかベッドで眠っていたのだけれど、理仁の姿は無い。
「やだ、理仁さんが帰って来たの気づかなかった」
帰宅に気づけなかったどころか、ソファーで眠ってしまった自分をベッドまで運ばせてしまった事にも申し訳なく思う真彩。
急いでリビングへと向かうもやはり理仁の姿は無く、代わりに翔太郎が真彩を待っていた。
「おはようございます、真彩さん」
「おはよう翔太郎くん。理仁さんは……」
「兄貴はもう出ました。何でも今日は九州まで行く用事があるとか。帰りは明後日になるそうです」
「そう……なんだ」
忙しい彼を労う事すら出来ていない真彩は自分の不甲斐なさに気落ちする。
それに気付いた翔太郎が何かを言いかけた、その時、
「姉さん!」
いつになく慌てた表情の朔太郎が、
「悠真、熱があるみたいで、姉さんを呼んでるッス」
一緒の部屋で寝ていた悠真の体調が悪くて呼んでいると真彩に伝えに来た。
理仁と結婚しても日常生活に特に変わりのない真彩はいつも通り家事に勤しんでいた。
悠真は小学校へと通い出してから周りの友達の影響もあって朔太郎や真彩にベッタリという事も減りつつあり、最近では強くなりたいと言って空手を習い始めていたりする。
「姉さん、そろそろ買い物行きますか?」
「あ、うん、そうだね。今日は悠真の習い事の日だし、帰ったらすぐおやつを食べられるように準備しなきゃだから今のうちに行こうか」
今日は買い出しに行く日とあって、悠真が帰宅する時間までに済ませてしまおうと買い出しの付き添い担当でもある朔太郎が真彩に声を掛けていざ出掛けようというその時、
「うっ……」
「姉さん?」
「ご、ごめん、ちょっと気分が……」
急な吐き気に襲われた真彩は心配する朔太郎の横を通り過ぎると急いでトイレに駆け込んだ。
実は数日前から度々吐き気に襲われていた真彩。
初めは季節の変わり目で体調を崩したのかもと思ったりしていたものの、熱や風邪の症状がない事、ふと思えば月のものが暫く来ていない事に気付く。
「……これって、やっぱり……」
悠真を身篭った時にも同じような事があり、恐らく妊娠しているのではと直感した。
「……とりあえず、調べてみないとね」
悠真の時は初めての事で戸惑いや不安しか無かったものの、二度目ともなると慌てたりはしない。
トイレから出て部屋に戻った真彩は心配する朔太郎に笑顔を向け、
「ごめんね、もう大丈夫だから行こうか」
「姉さん、具合が悪いなら俺一人で行きますから、姉さんは休んでてください」
そう声を掛けるけれど、具合が悪いなら一人で行くと朔太郎が言う。
「ううん、本当に大丈夫。私も買いたいものがあるから一緒に行かせて?」
「……姉さんが、そこまで言うなら……」
本来ならばお願いしたいし有難い申し出ではあるものの、流石に検査薬を買って来てと頼めるはずもない真彩。
「けど、絶対無理しないでくださいよ?」
「うん、約束するね。ありがとう」
何とか朔太郎を説得して一緒に出掛けることになった真彩は、朔太郎の運転する車でいつものスーパーへと向かう事になった。
その夜、
「……やっぱり」
悠真を寝かせて落ち着いた真彩は昼間買ってきた検査薬を使ってみると、思っていた通りの結果になったのだ。
「……でも理仁さんには、きちんと病院で確かめて貰ってから伝えよう」
実は今、理仁は仕事で毎日帰りが遅く、朝も早い。
何でも傘下組織で問題が発生したり経営の方でも様々な問題を抱えているらしく、常に忙しそうにしていてゆっくり話す時間が取れていない状況の中、万が一間違いだったりして迷惑を掛けたくないという思いから今はまだ話せないと考える真彩。
「とりあえず早めに病院に行って、検査してもらおう……」
そう決めた真彩は今日も遅い理仁の帰りを待ちながらソファーで眠ってしまうのだった。
翌日、真彩が目を覚ますといつの間にかベッドで眠っていたのだけれど、理仁の姿は無い。
「やだ、理仁さんが帰って来たの気づかなかった」
帰宅に気づけなかったどころか、ソファーで眠ってしまった自分をベッドまで運ばせてしまった事にも申し訳なく思う真彩。
急いでリビングへと向かうもやはり理仁の姿は無く、代わりに翔太郎が真彩を待っていた。
「おはようございます、真彩さん」
「おはよう翔太郎くん。理仁さんは……」
「兄貴はもう出ました。何でも今日は九州まで行く用事があるとか。帰りは明後日になるそうです」
「そう……なんだ」
忙しい彼を労う事すら出来ていない真彩は自分の不甲斐なさに気落ちする。
それに気付いた翔太郎が何かを言いかけた、その時、
「姉さん!」
いつになく慌てた表情の朔太郎が、
「悠真、熱があるみたいで、姉さんを呼んでるッス」
一緒の部屋で寝ていた悠真の体調が悪くて呼んでいると真彩に伝えに来た。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
「三条美玲の炎上」スピンオフ・田中翔の業務日誌
中岡 始
現代文学
翔を中心に描かれるこの物語は、青海の宿で巻き起こった騒動を通して、彼がプロフェッショナルとしての自分を見つめ直し、成長していく姿を描いている。
有名インフルエンサー三条美玲の滞在は、一見して特別な時間を過ごすためのものだった。しかし、美玲が翔の相方・隼人に求める「VIP対応」は、単なるサービスを超えた特別な期待を含んでおり、徐々にそのリクエストは過剰になっていく。やがて、彼女の不満はSNSで炎上し、ホテル全体がその波に飲まれることに。
翔は、隼人と共に対応しながら、この予期せぬ事態に巻き込まれていくが、そこには自らがホテルマンとして何を大切にし、どうあるべきかを考えさせられるきっかけがあった。プロフェッショナリズムとは何か、真のホスピタリティとはどこにあるのか――騒動の中で、翔はこれらの問いに対する答えを見つけようと奮闘する。
ホテルの公式声明、合同インタビューなど、次々と対応が進む中で、翔は隼人との絆を深め、共に成長していく。果たして彼は、この騒動を通じてどのような変化を遂げるのか? そして、翔の目指す理想のホテルマン像はどこへ辿り着くのか?
翔がその道のりの中で見つける「答え」が、読者を新たな気付きへと導くだろう。困難を乗り越える彼の姿から目が離せない。翔の挑戦と葛藤に、どうか注目してほしい。

パラダイス・ロスト
真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。
※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
遠くて近い君へ
中岡 始
BL
リゾートホテル「青海の宿」のフロントスタッフである隼人は、一流の接客スキルを磨き上げるため、青海の宿からフィレンツェの高級ホテルでの研修に旅立つことになる。
異国の地で新しい文化やホスピタリティのスタイルに触れ、刺激的な日々を送りながらも、隼人の心はどこか満たされずにいた。それは、青海の宿で共に働いてきた翔の存在を忘れられないからだった。
フィレンツェで出会った先輩スタッフのアレッサンドロや、彼のパートナーであるリカルドとの交流を通じて、隼人は「愛」や「自分らしさ」を見つめ直していく。そして、翔に対する気持ちがただの友情ではなく、もっと深いものだと気づき始める。
一方、隼人のいない青海の宿では、翔が新人スタッフ・健一の指導を通じて成長し、隼人の存在の大きさに改めて気づいていく。隼人がいないことで感じる空虚感の中で、翔もまた、隼人への特別な想いを自覚し始める。
再び巡り会う日が近づく中、二人の心の距離はどう変わるのか。離れていても繋がる思い、そして、再会によって深まる絆。友情を超えた特別な感情が芽生える中、隼人と翔は本当の気持ちを互いに伝えられるのか――。
心の揺れ動きと成長を描く、切なくも温かいラブストーリーが今、始まる。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる