魔王軍に転生した元人事部長、三十路ボディで職場改革します~おっさん、異世界で“人事改革”はじめました

中岡 始

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第6章 全軍改革、始動

改革チーム、動き出す

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山本の私室にはまだ夜の余韻が残っていた。  
魔導地図は折りたたまれて机の端に置かれ、周囲には視察メモ、配置図、兵士評価記録がきれいに整えられている。  
その中心に、山本とリリシアが向かい合っていた。

窓の外では空が徐々に白みはじめ、夜と朝の境がにじむような時刻だった。

山本は、手帳を開きながら静かに言った。

「今まで、配置や評価は俺ひとりでやってきたが、ここから先は無理がある。  
全軍規模の改革には、本部と現場の間を繋ぐ専属のチームが必要だ。  
情報の収集と分析、優先度の調整、そして兵士たちの心理的距離を測る役割……どれも、机上だけでは限界がある」

リリシアは腕を組んだまま聞いていた。  
その表情は変わらなかったが、目の奥には何かを計るような光があった。

「つまり、“現場の声”を吸い上げる触手を持ちたい、ということね」

「そうだ」

山本は頷いた。

「問題を持っているのは、“組織”ではなく“人”だからな。  
組織図で語れるのは枠組みまで。実際に何が起きているかを知るには、人の視線がいる。  
だから、現場の変化を敏感に察知できて、そこに違和感を持てるような目が必要なんだ」

リリシアはしばし無言だった。  
やがて、ゆっくりと歩を進め、机の端に置かれた魔導地図の上に手を置いた。

「私が副官として、戦略面と配置案の調整に当たるのは構わない。  
だが、それだけでは足りない。  
現場の温度を直接持ち帰れる者が必要。あなたが本気でやるなら、そういう存在が不可欠よ」

山本は微かに笑った。

「そこは、もう当たりをつけている」

「誰?」

「ゴブタだ」

その名を聞いて、リリシアの眉がわずかに動いた。

「遊撃隊の……あの最下級兵?」

「ああ。あいつは、最初“使えない奴”の典型だった。けれど、配置ひとつで本来の力を出しはじめた。  
そして何より、変化に対して拒否感を持たなかった。それどころか、順応して周囲に影響を与えている。  
彼は“変化する組織”の中で、自分の居場所を手探りで見つけてきた。  
だからこそ、他人の違和感にも気づけるはずだ」

リリシアはしばらく考えるように視線を落としたあと、静かに言った。

「……なるほど。確かに、そういう目は得がたいわね。  
だが彼ひとりでは、情報の整理と体系化が追いつかないわ。  
現場の声を拾うには感性が要るけれど、それを“使える形”にするには別の才覚がいる」

「わかっている」

山本は手元のメモを見やりながら言った。

「だからこそ、必要になるのが“情報管理官”の役割だ。  
データをただ集めるのではなく、価値に変換して、行動に活かせるような整理力。  
まだ人選はできていないが……これは時間をかけてでも、見つけないといけない人材だ」

リリシアの目がわずかに細くなった。

「そこまで見越しているとは思わなかった」

「仕事だからな」

山本は苦笑しながら肩をすくめた。

「何より、チームがなければこの規模は動かせない。  
個の判断だけではいずれ限界が来る。  
だからこそ、俺自身が“仕組みの一部”にならないといけない」

その言葉に、リリシアはふと何か思い出すように目を伏せた。

「あなたは……“仕組みを信じる人”なのね」

「仕組みには裏切られたことがある。でも、仕組みを変えることで人が救われるのを、俺は何度も見てきた」

山本は机の上の地図に手を置いた。

「だからもう一度、やる。今度は、俺が作る側として。  
誰もが動ける場所を、手触りのある組織として構築するんだ」

リリシアはその言葉に何も返さず、ただ静かにその背を見つめていた。

しばらくして、山本は手帳を開き、一行を記した。

『個が変わっても、世界は変わらない。  
だが、仕組みが変われば、人の流れが変わる。  
そして、その流れが、やがて未来を動かす。』

それは、彼自身が幾度となく失敗と反省を経て辿り着いた実感だった。

彼はゆっくりと立ち上がった。

「明日から、改革チームの正式運用に入ろう。  
まずはゴブタに話を通して、初動観察役に任命する。  
リリシア、君には引き続き全体調整をお願いしたい。  
それと――情報管理官についても、人材候補がいれば挙げてくれ」

リリシアは短く頷いた。

「了解した。あなたが“組織の器”を作るなら、私はそこに“現実”を注ぐ。  
理想と現場、その中間に立つのがこのチームの役目なら、応えるわ」

山本は、その言葉に深く頷いた。

魔王軍の歪みを、たった一人で動かすことはできない。  
だが、同じ方向を見つめる目がある限り、始めることはできる。

その夜、山本の部屋には明かりが長く灯り続けた。  
それは、静かに確かに、組織の未来が動き出す光だった。
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