遠くて近い君へ

中岡 始

文字の大きさ
上 下
37 / 37
第8章 告白の瞬間

エピローグ

しおりを挟む
隼人と翔が新たに気持ちを通わせ合ったその翌日、二人はまた普段通りの仕事に戻った。しかし、今までとは少しだけ違う穏やかな緊張感が、二人の間に漂っていた。周囲に隠しながらも、二人の関係が変わったことはお互いにはっきりと感じられていた。

隼人は翔の方に目をやり、心の中で「これからどうなるだろう」と考えた。関係が進展したことで、職場での立場や他のスタッフとの接し方にも慎重にならなければならない。しかし、それ以上に隼人の胸にあるのは、翔との新しい日々をどのように築いていくかという期待だった。

その日の昼休み、隼人と翔は職場から少し離れた場所にあるカフェで休憩を取っていた。二人きりで過ごす時間が以前よりも自然に感じられる一方で、今後のことをどう進めていくべきか、話し合う必要があることも感じていた。

「今はまだ周りには内緒にしておこうか」

隼人が慎重に口を開くと、翔は頷いた。

「うん、急に言うのもなんだか気まずいし…仕事に支障をきたしたくないしね」

隼人は続けた。

「俺たちの関係が変わったことを、どうやってうまく保ちながら仕事を続けるか、考えていかなきゃいけない。でも、無理に隠すのもつらいだろうし…」

「少しずつ、様子を見ながらやっていこう」

翔が微笑みながら答えた。

「周りがどう思うかも気になるけど、まずは僕たちがどう向き合うかが大事だと思う」

隼人は翔の言葉に安堵を感じた。互いに考えていることが同じであることが、今後の道のりを支えてくれる確信へと変わっていく。そして、二人はまた新たな試練を乗り越えるための準備を心の中で始めた。

その日の午後、隼人はフロントでの業務に戻り、翔と交代でゲストを迎え入れた。仕事に集中する一方で、心の奥底では、これから二人でどのように関係を深めていくべきかを常に考えていた。今まで以上に息が合ったチームワークを見せる二人に、他のスタッフからの何気ない視線も向けられるようになったことに、隼人は気付いていた。

これから二人が直面することになるのは、職場での立場や仕事のバランスをどう保つかだけではない。二人が共に歩む道には、時に厳しい現実が待ち受けているかもしれない。それでも、隼人は今までの経験を糧に、翔と一緒にそのすべてを乗り越えることができると信じていた。

二人の関係が深まったことで、これまでとは違う新たな挑戦が次々と訪れる予感が漂う中、隼人は心の中で小さく息をついた。「僕たちなら、大丈夫だ」と、自分に言い聞かせるようにそう思った。そして、翔の笑顔がその言葉の裏付けとなり、隼人は前を向いて歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

隼人と翔の休日

中岡 始
BL
三条美玲の炎上事件によって、隼人の心には深い傷が残った。恋愛に対する不安やためらいを抱き、穏やかな表情の裏には重苦しい影が漂っている。自信を失い、心を閉ざしつつあった隼人に、さりげなく支えの手を差し伸べたのは同期入社の翔だった。「いつでも話していいから」とかけられた一言が、彼の心を救うきっかけとなる。 そんな二人に、松永総支配人から3日間の休暇が与えられ、山間の秘湯「深緑の宿」で心を癒す旅が始まる。紅葉に包まれた静かな温泉旅館での時間が、隼人の心を少しずつ解きほぐし、彼の中に眠っていた翔への特別な感情を浮かび上がらせる。そして、女将・山崎美沙子との対話が、隼人をさらに自分の本当の気持ちへと導いていく。 旅の終わり、二人が展望台で見つめ合ったその瞬間――言葉にしなくても通じる想いが二人の間に流れ、彼らの関係は新たな段階に踏み出そうとしている。この旅が、隼人と翔をどこへ導くのか。心の傷が癒されるとともに、二人の絆が深まるストーリーが今、静かに幕を開ける。 ※「三条美玲の炎上」のスピンオフ小説となります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/560205036/618916300 ↑三条美玲の炎上

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

処理中です...