遠くて近い君へ

中岡 始

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第8章 告白の瞬間

1.隼人の告白への決意

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隼人は、心の中に湧き上がる決意を感じていた。これまでフィレンツェで学んだ多くのことや、アレッサンドロから受けた助言が彼の背中を押していた。アレッサンドロの「愛することに対して勇気を持て」という言葉が何度も頭の中で繰り返され、自分の気持ちに素直になるべきだと確信するようになっていた。

翔と過ごす日常の中で、ふとした瞬間にその思いが強まる。例えば、二人でゲスト対応をしているときの何気ない会話や、仕事終わりに一緒に食事をする時間。そういった一つ一つの出来事が隼人にとって特別に感じられ、「このまま何も言わずにいたら後悔するかもしれない」と思い始めていた。

ある日、隼人は翔と共に青海の宿の庭園を歩いていた。仕事の合間のリフレッシュとして、ふたりでしばしばこの庭園に足を運んでいたが、今日は少し特別な感覚があった。隼人は空を見上げ、フィレンツェでの美しい夕暮れを思い出す。あのとき自分に勇気を与えてくれたアレッサンドロやリカルドとの出会いが、今の自分を支えていることに気づく。

「翔、少し話があるんだ」

と隼人は静かに言った。
翔は少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、

「どうしたの?」

と微笑んだ。その姿に隼人は一瞬ためらいを感じたものの、心の奥にある決意がそれを押しのけた。

「フィレンツェでの研修が終わってから、ずっと考えてたんだ」

と隼人は言いながら、視線を翔の方に向けた。

「アレッサンドロやリカルドに出会って、いろんなことを学んだ。そして、何よりも大切なことに気づかされたんだ」

隼人の声には、かすかな緊張が混じっていたが、それでも彼は続けた。

「自分の気持ちに素直でいること。そうすることで、本当に大切な人に対して誠実でいられるんだと」

翔は隼人の言葉に耳を傾け、何かを感じ取ったようだった。隼人の視線が真っ直ぐ自分に向けられていることが、ただの友人としての関係ではない特別な感情を含んでいることを示していた。

「だから、俺は君に伝えなきゃいけないことがある」

と隼人は言い、心の中で最後の勇気を振り絞った。
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