遠くて近い君へ

中岡 始

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第7章 互いへの想い

1.隼人への想いの再確認

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隼人が青海の宿に戻ってきてからというもの、翔の心には新たな感情の波が押し寄せていた。以前と同じように隼人と仕事を共にする日常が戻ったことは嬉しい。しかし、それ以上に隼人の存在が、自分にとって特別で大切なものだと改めて感じている自分がいた。

隼人がいない間、翔は多くのことを学んだ。健一の指導を通じてリーダーシップを磨き、隼人のように冷静で的確な対応を心がけることで自信をつけることができた。だが今、隼人が戻ってきたことで、自分が成長したと感じていた部分が再び揺らいでいるのを感じる。

隼人が一緒にいることで、翔は安心感を覚えた。彼の存在がフロントの空気を引き締め、困難な状況でもいつも冷静に対処してくれる。そんな隼人を目の前にすると、つい頼りたくなってしまう自分に気付いてしまう。だが、翔は以前と同じように隼人の影に隠れてしまうことは避けたいと思っていた。

「隼人に頼るだけではなく、彼と対等に仕事ができる自分でありたい」

翔はそう強く思い続けてきた。だからこそ、隼人がいない間に積み重ねた努力を無駄にするわけにはいかないと自分に言い聞かせていた。だが、隼人と一緒に働く日々が戻るにつれて、彼に頼ってしまいたい気持ちが再び芽生えていることが否定できない。

ある日、休憩室でふと隼人の背中を見つめている自分に気づいた。隼人は他のスタッフと楽しげに会話しているが、その姿は以前よりも自信に満ち溢れ、研修で得た新しいスキルや考え方が彼をさらに成長させたのだとわかる。そんな隼人を見ていると、自然と心が温かくなる一方で、自分が隼人に対して抱いている感情が何であるのかを考えずにはいられなかった。

「自分は隼人のことをどう思っているのだろう?」

その問いは、翔の心に深く根を下ろし始めていた。友人や同僚としての特別な存在なのか、それともそれ以上の感情が隠れているのか。隼人が戻ってきたことで、日常が再び活気を取り戻した反面、翔の心の中には新たな迷いが生まれた。

休憩が終わり、仕事に戻る際、翔は隼人の方を見て決意を新たにした。「今度は隼人に支えられるだけじゃなく、自分も彼を支える存在になりたい」と。対等でありたいという強い思いが、翔の胸の内で再び熱く燃え上がり始めていた。
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