遠くて近い君へ

中岡 始

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第6章 隼人の復帰

3.翔、がんばる

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隼人が青海の宿に戻ってから数週間が経ったある日、隼人はチェックインカウンターで対応する翔の姿に目を留めた。以前とは違う、自信に満ちた様子がそこにはあった。ゲストからの複雑なリクエストにも冷静に対応し、迅速な判断でスタッフに的確な指示を出す翔の姿は、隼人がいない間に大きく成長したことを物語っていた。

その日の業務が一段落し、休憩室で二人きりになった時、隼人は微笑みを浮かべて口を開いた。

「翔、君は本当に一人でもよく頑張っていたんだな」

隼人の言葉に翔は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに控えめな笑みを浮かべた。

「ありがとう。隼人がいない間、健一と一緒にやってきたんだ。でも正直、隼人が戻ってきてくれてほっとしてる。やっぱり君がいると安心感が違うんだ」

隼人はそんな翔の素直な言葉に少し驚いたが、同時に彼が自分を信頼していることに温かい気持ちになった。
そして、翔は少し照れくさそうに肩をすくめた。

「健一は最初、ミスばかりで大変だったけど、根気強く指導していたら、いつの間にか彼も成長してくれた。それに、僕も隼人がいつも冷静で的確な対応をしてくれていたことが、どれだけ助けになっていたのかを改めて実感したんだ」

隼人は翔の言葉を聞きながら、彼が自分のいない間にどれほど努力していたのかが伝わってきた。隼人がフィレンツェで経験してきたことを青海の宿で活かしているように、翔もまた、隼人がいない中で自分なりの道を模索し、成長してきたのだ。

「君のその姿勢には、本当に感心するよ。今では、君がリーダーとして立派にやっていける姿が見えるし、僕も負けていられないな」

と、隼人は誇らしげに言った。

翔はその言葉に目を輝かせ、隼人に対する特別な感情が再び胸の奥で鮮明になるのを感じた。

「ありがとう、隼人。でも、僕もまだまだだよ。これからも一緒に頑張っていこう」

と、翔は力強く応じた。

二人の間には、以前よりも強く深い信頼関係が築かれているのを感じた。隼人は翔の成長を心から喜び、翔も隼人との再会を通じて、自分がどれだけ変わったかを実感することで、彼に対する想いが再び心に灯り始めていた。
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