遠くて近い君へ

中岡 始

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第5章 別れと再会

4.帰国に向けた心境の変化

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隼人はフィレンツェを離れる飛行機に乗り込んだ。機内のシートに深く腰を沈め、窓の外に広がる青い空を眺めながら、彼はフィレンツェでの研修生活を振り返っていた。異文化の中での挑戦、アレッサンドロやリカルドとの出会い、そして何よりもイタリアのホテル業務を通じて学んだ数々のこと。それらの経験は、自分を大きく成長させたと感じる。

だが、隼人の心の中で最も強く響いていたのは、翔への想いだった。フィレンツェでの生活が続く中、彼と過ごした日々の記憶が鮮明に蘇り、翔の存在がどれだけ大切なものであるかを再認識させられた。アレッサンドロの「自分の気持ちに正直に生きることが大切だ」という言葉が、幾度となく隼人の心に重なり、翔への想いが友情を超えたものであることを確信させる。

「ちゃんと気持ちを伝えよう」と隼人は心の中で静かに決意した。隼人にとって翔はただの同僚や友人ではなく、もっと特別な存在であり、その気持ちを隠し続けることはもうできないと感じたのだ。

飛行機が上空へと高度を上げていくにつれ、隼人の心にも期待と不安が入り混じった感情が浮かんでいた。日本に戻って再び青海の宿のフロントに立つことへの高揚感と、翔と再会した時にどのように気持ちを伝えれば良いのかという不安が頭をよぎる。

「翔はどう思うだろうか?」隼人はそう自問し、再会がどうなるかを想像するたびに胸が高鳴るのを感じた。彼にとって、翔との再会は単なる仕事の再開ではなく、新しい一歩を踏み出すための大切な瞬間となるだろう。そして、その一歩を踏み出す勇気をくれたのは、フィレンツェでの経験と、アレッサンドロたちとの出会いだった。

機内のアナウンスが日本への到着予定時刻を告げると、隼人はふと息をつき、シートベルトを締め直した。「成長した自分を見せて、翔に会おう。そして、心の中にある本当の気持ちを伝えるんだ」と、隼人は静かに決意を固めた。
日本への帰路は、彼にとって新しい挑戦の始まりでもあった。
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