遠くて近い君へ

中岡 始

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第5章 別れと再会

2.翔の成長と気持ちの整理

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健一が去った後、翔はロビーに立ち尽くし、静かな館内を見渡した。隼人がいなかった数ヶ月間、自分がどれほど変わったのかを改めて考えていた。健一との時間は翔にとって、単なる指導の場を超えて、自分自身の成長を確かめる場でもあった。初めは手探りだった健一の指導も、次第に自信を持って対処できるようになり、隼人がいなくても自分はやれるのだと感じられるようになった。

翔は、冷静な対応力や問題解決のスキルがこの期間で格段に向上したことを実感していた。健一のミスに対処したり、彼が成長する姿を見守る中で、自然とリーダーシップも身についていった。今の自分なら、以前よりも強くなっていると確信できる。

それでも、翔の心の中には隼人の存在が大きく残っていた。隼人が戻ってきたらどんな顔をするだろうか。翔は彼がフィレンツェで経験したことを聞くのが楽しみであり、それと同時に自分がどれだけ成長したかを見せたいという思いも強かった。

「隼人が帰ってきたとき、ちゃんと自分の気持ちを伝えられるだろうか」

翔はふとそう呟き、自分の中にある特別な感情を整理するための時間を過ごすことにした。隼人がそばにいた日々がどれほど大切だったのか、そしてその不在が自分に与えた影響をしっかりと見つめ直し、自分自身の心を整える必要があった。

隼人がいない間に得た成長は確かだ。しかし、それは隼人が戻ってきて初めて、本当に意味を持つようになる。翔はその日が来るのを心待ちにしながら、自分の心を少しずつ整理し始めた。そして、隼人との再会が、新しい何かを始めるきっかけになるのではないかという予感を抱いていた。
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