遠くて近い君へ

中岡 始

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第5章 別れと再会

1.健一の派遣期間終了

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六月のある夕方、青海の宿のロビーには、静かな別れの空気が漂っていた。健一は派遣期間を終え、系列ホテルに戻るための準備を進めていた。翔はフロントカウンターで最後のシフトを終えた健一を見つめ、その成長を心から嬉しく感じていた。彼が青海の宿で見せた努力と前向きな姿勢を思い返しながら、翔は別れの寂しさをかみしめる。

「中村君、これで最後のシフトだったんだな」

翔が健一に声をかけると、健一は少し照れくさそうに笑った。

「はい。でも本当にあっという間でしたね。最初はミスばかりで、翔さんに迷惑かけてばかりで…」

健一の言葉を聞いて、翔は軽く首を振った。

「そんなことないさ。君はちゃんと成長してくれた。俺も教える中でいろいろ学ばせてもらったよ」

二人は少しの間、視線を交わした後、健一が深々と頭を下げた。

「翔さんにたくさん教わって、本当に感謝しています。最初は自分がここでやっていけるか不安でしたけど、翔さんが根気よく指導してくれたおかげで、少しは成長できたと思います」

その言葉を聞いて、翔は自然と笑顔がこぼれた。

「俺も、中村君が頑張ってる姿に何度も励まされたよ。またいつか一緒に働ける日が来たら、その時はさらに頼れる存在になっていてほしいな」

健一はうなずきながら、翔の言葉に力強く応えた。

「もちろんです!また青海の宿に来る機会があれば、その時はもっと成長した姿を見せたいと思います」

二人はお互いに感謝の気持ちを込めて握手を交わし、健一はフロントから去っていった。翔はその後ろ姿を見送りながら、彼の成長を信じ、再び会える日を心待ちにする気持ちを胸に抱いた。そして、健一との別れが、隼人との再会に向けて自分をより強く成長させるきっかけになると確信していた。
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