遠くて近い君へ

中岡 始

文字の大きさ
上 下
18 / 37
第3章 新たな学び

6.翔の自己評価と隼人への思い

しおりを挟む
健一のミスが続いたある日の夜、翔は一人でフロントに残っていた。事務処理を終えながら、今日の出来事を振り返っていたが、頭の中には健一のことよりも、隼人の姿が浮かんでいた。隼人がいた頃は、どんなに困難な状況でも彼の冷静な判断に助けられたことを思い出す。隼人の存在が自分にとってどれだけ大きな支えであったのか、今さらながら痛感していた。

「僕も、隼人みたいになれればいいのに…」

思わず口から出た言葉に、自分で驚いた。隼人は常に落ち着いていて、スタッフやゲストに対しても的確な対応を見せていた。それに比べて自分は、まだリーダーとしての自信が足りず、健一に対しても上手く指導できていないのではないかという不安に苛まれていた。

翔はデスクに肘をつき、額に手を当てた。

「隼人がいれば、こんなことで悩むことはなかったのに…」

自分がどれだけ隼人に頼り切っていたのかを改めて実感すると同時に、その不在が心にぽっかりと穴を開けていることに気づく。健一の成長を支えるために頑張ろうとする一方で、隼人がいなくなってしまった寂しさは消えることがなかった。

健一に対して、もう少し的確にアドバイスができていたらと思い、翔は深いため息をついた。隼人のようなリーダーシップを発揮するのは簡単ではないが、隼人が自分に示してくれたような冷静さや的確さを自分も身につけなければならないと強く感じた。隼人がいない今、翔は一人でも成長しなければならなかった。

「隼人…君がいないと、本当に大変だよ」

静かなフロントの空気の中で、翔は隼人への思いがさらに強まっていることを自覚した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隼人と翔の休日

中岡 始
BL
三条美玲の炎上事件によって、隼人の心には深い傷が残った。恋愛に対する不安やためらいを抱き、穏やかな表情の裏には重苦しい影が漂っている。自信を失い、心を閉ざしつつあった隼人に、さりげなく支えの手を差し伸べたのは同期入社の翔だった。「いつでも話していいから」とかけられた一言が、彼の心を救うきっかけとなる。 そんな二人に、松永総支配人から3日間の休暇が与えられ、山間の秘湯「深緑の宿」で心を癒す旅が始まる。紅葉に包まれた静かな温泉旅館での時間が、隼人の心を少しずつ解きほぐし、彼の中に眠っていた翔への特別な感情を浮かび上がらせる。そして、女将・山崎美沙子との対話が、隼人をさらに自分の本当の気持ちへと導いていく。 旅の終わり、二人が展望台で見つめ合ったその瞬間――言葉にしなくても通じる想いが二人の間に流れ、彼らの関係は新たな段階に踏み出そうとしている。この旅が、隼人と翔をどこへ導くのか。心の傷が癒されるとともに、二人の絆が深まるストーリーが今、静かに幕を開ける。 ※「三条美玲の炎上」のスピンオフ小説となります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/560205036/618916300 ↑三条美玲の炎上

迷える子羊少年と自称王様少年

ユー
BL
「その素晴らしい力オレの側にふさわしい、オレの家来になれ!」 「いや絶対嫌だから!」 的なやり取りから始まる 超能力が存在するSF(すこしふしぎ)な世界で普通になりたいと願う平凡志望の卑屈少年と 自分大好き唯我独尊王様気質の美少年との 出会いから始まるボーイミーツボーイ的な青春BL小説になってればいいなって思って書きました。 この作品は後々そういう関係になっていくのを前提として書いてはいますが、なんというかブロマンス?的な少年達の青春ものみたいなノリで読んで頂けるとありがたいです。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...