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道理と恋慕
道理と恋慕8
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新しい生活、新しい家具。そして。
「え、俺と桜子の部屋また一緒なの?」
二十歳過ぎた大人が妹と同じ部屋で寝るなんて話、聞いた事がない。
「狭いアパートなんだから我慢しなさい」
「だったら普通、母さんと桜子が一緒じゃね?」
「子供は子供部屋でしょ」
だからもう、子供ではないのだけど。
ひとり部屋が欲しかったと頬を膨らませる俺に、桜子は「そういえば」と小さな箱を取り出した。
「お兄ちゃん、はいこれ」
「なにそれ」
「あれだよ。お兄ちゃんが大事そうに枕元に置いてたやつ。とっておいた」
箱の蓋を開けてみると、そこにはキラリと光る金歯が見えた。
「ああ、これか」
その途端、嫌な思い出が鮮明に呼び起こされた。
「なにそれ」
佇む俺の後ろ、洗濯カゴを抱えた母親が俺の手元を覗いてくる。
「金歯だよ」
「誰の」
「内田組にいた聖一希さんの」
「わあ、懐かしいわねぇ」
「もう死んじゃったけどさ」
「え?生きてるわよ?」
その瞬間、俺の目は点になった。
「い、生きてるの!?父さんが殺ったんじゃないの!?」
彼女の両腕を揺さぶって、問いただせば。
「なに言ってんのよ、そんなことしてないわよ~。確かに聖が『辞めたい』って頭下げに来た時にはボコスカ殴ってた気もするけど、生きては返してあげたはず」
と返されて、心が踊った。
生きている。一希さんはこの地球上のどこかで息をしている。
「やったな、ドラゴン!一希さん生きてるってよ!」
こんなにも喜ばしい事は、早速左腕にも報告をした。そんな俺には、母親と桜子の冷ややかな視線が届いたが、そんな事はどうでもいい。何故ならば俺は今、華やいでいるから。
「どうしちゃったの、お兄ちゃん……」
「さあ。さっきからあの絵に空気吸わせたりなんだりしてるのよ。よっぽど刑務所で話し相手がいなかったんじゃない?」
「へえ、孤独ー」
一希さんを殺さなかった父親。たったそれだけで、彼に感謝が募る。
「え、俺と桜子の部屋また一緒なの?」
二十歳過ぎた大人が妹と同じ部屋で寝るなんて話、聞いた事がない。
「狭いアパートなんだから我慢しなさい」
「だったら普通、母さんと桜子が一緒じゃね?」
「子供は子供部屋でしょ」
だからもう、子供ではないのだけど。
ひとり部屋が欲しかったと頬を膨らませる俺に、桜子は「そういえば」と小さな箱を取り出した。
「お兄ちゃん、はいこれ」
「なにそれ」
「あれだよ。お兄ちゃんが大事そうに枕元に置いてたやつ。とっておいた」
箱の蓋を開けてみると、そこにはキラリと光る金歯が見えた。
「ああ、これか」
その途端、嫌な思い出が鮮明に呼び起こされた。
「なにそれ」
佇む俺の後ろ、洗濯カゴを抱えた母親が俺の手元を覗いてくる。
「金歯だよ」
「誰の」
「内田組にいた聖一希さんの」
「わあ、懐かしいわねぇ」
「もう死んじゃったけどさ」
「え?生きてるわよ?」
その瞬間、俺の目は点になった。
「い、生きてるの!?父さんが殺ったんじゃないの!?」
彼女の両腕を揺さぶって、問いただせば。
「なに言ってんのよ、そんなことしてないわよ~。確かに聖が『辞めたい』って頭下げに来た時にはボコスカ殴ってた気もするけど、生きては返してあげたはず」
と返されて、心が踊った。
生きている。一希さんはこの地球上のどこかで息をしている。
「やったな、ドラゴン!一希さん生きてるってよ!」
こんなにも喜ばしい事は、早速左腕にも報告をした。そんな俺には、母親と桜子の冷ややかな視線が届いたが、そんな事はどうでもいい。何故ならば俺は今、華やいでいるから。
「どうしちゃったの、お兄ちゃん……」
「さあ。さっきからあの絵に空気吸わせたりなんだりしてるのよ。よっぽど刑務所で話し相手がいなかったんじゃない?」
「へえ、孤独ー」
一希さんを殺さなかった父親。たったそれだけで、彼に感謝が募る。
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