道理恋慕

華子

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絶望と憤慨

絶望と憤慨6

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 尻が痺れてきたところで、俺はスマートフォンの眩しい液晶を見た。時刻は『20:28』と表記されている。2時間くらいはここでこうしているだろうか。

 体勢を変えた俺は、今度は背もたれに背を預けた。見上げた先、木がさわさわと揺れている。灯りが乏しい境内のせいか、葉の隙間からは3粒ほどの星が瞬いているのが確認できた。

 さわさわ、キラキラ

 世の中というのは、何も裏を知らなければ平和なものだ。

 左腕を掲げて、平和の中に龍を交ぜる。ギロリと鋭い眼光で威嚇するそいつも、こんな長閑な場所では喜び微笑んでいるように感じた。

「一希さん……」

 俺の刺青は見た目を強化する為のものだけれど、彼の刺青は身体を露わにしなければ視認できない肩に入っていた。何度も一緒に仕事をしてきた俺ですら、彼から聞かされるまでは知り得なかったところに。
 他者を脅す為に彫られたものではないのだとすると、彼は一体何が理由でそれを自身の身体に刻んだのだろうか。そこには俺が見当もつかない、覚悟や決意があったのだろうか。

 龍は空を優雅に泳いでいた。

 俺、ここの方がいい。

 そう言われているみたいだった。


「うっちゃん?」

 あまりにも穏やかな中に溶け込みすぎて、脳が錯覚を起こし出す。

「うっちゃん」

 幻聴が鼓膜で木霊して、暫く逢えていない芽衣の姿が、朧げに龍と重なっていた。しかし。

「ねえ、うっちゃんってば」

 三度みたび聞こえたその声に、俺は左腕を静かに下ろした。

 芽衣がここにいるわけがない。そんなはずはない。

 そう思うけれど念の為、俺は空から視線を外した。

「め、芽衣……」

 すると視界の中心に現れたのは、芽衣だった。ここにいるはずなどない、芽衣だった。

「芽衣、なんで……」

 君は俺の左腕に描かれた絵に1度目を向けていたが、優先したのはそれを問いただす事ではなかった。

「そんな辛い顔をして、なにかあったの?大丈夫?」

 外見よりも内面を重視してくれる君に、俺は今すぐにでも抱きついてしまいそうになった。
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