道理恋慕

華子

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刺青と鬼胎

刺青と鬼胎13

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「おお大和、似合ってるじゃないか」

 ほんのりと酒の香りが漂う口臭で、父親は言った。

「そうかそうか、俺と一緒の龍を選んだのか」

 流れに任せ選択しただけの刺青に喜びを示す父親に、俺は適当に合わせる。

「うん、龍っていいよね。気に入ってるよ」
「龍というのは圧倒的な力を持つ生き物だ。正に内田の名を継ぐ者に相応しいスミだな」

 下手な愛想笑いでその場をやり過ごした俺。煙草を片手に換気扇の下へ足を運んだ彼は、ゆるりと吐き出した煙を目で追った。

「今日は少しばかり厄介ごとがあったうちの組だが、もう父さんは、大和がうちにいるならそれでいい。裏切りも背信はいしん行為も大したことじゃないって、そう思える」

 すーっと吸って、ふーっと吐く。いつもより時間をかけて喫煙しているように見えた父親には、多少の疲れが見えた。

「これから色んなこと、お前にはいっぱい教えてやるからな。大和がかしらになるその日が今から楽しみだ」

 ひとり、その煙に未来を描く父親は、15年前に男の俺が誕生した時からずっと、一緒に仕事をする日を夢見ていたのかもしれない。

 食事の用意を手伝っていた桜子は、カチャカチャと食器を運びながら、段々と顔が暗くなっていく。娘への配慮も忘れ、極道を語るなんて父親失格だと思うけれど、彼にとってはただ仕事の話をしているだけで、微かな後ろめたさも感じないのだろう。

 俺の運命が両親かれらと同じ組織に入る事ならば、桜子はその組織を築く一家に産まれ育ったというレッテルを一生背負うのが宿命だ。
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