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刺青と鬼胎
刺青と鬼胎8
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施術は3時間に及んだ。
その間苦悶し続ける俺に、田中は「ガキだなあ」と何度か言っていたけれど、痛みに強くなるのにも、年の功が関係するのだろうか。
帰りの車内。窓から見上げる夜空にはくっきりとした月が浮かぶ。俺の左二の腕にも、くっきりはっきりと、ドラゴンが刻まれた。
「よかったな、大和。腕出してる限りはもう馬鹿にされねえよ」
どこか嬉しそうな田中は、弟の成長を喜ぶ兄のような顔を見せた。まだ赤く腫れぼったい龍が、先行車のテールランプでその赤みを増す。
「あの、お金いくらだったっすか?俺、ちゃんと親に言って払いますんで」
「あ?いいよいいよそんなの。俺の奢り」
「ええっ、それは悪いっすよ。メニュー表見たらけっこうな値段だったし、そんな大金、一希さんにっ」
あ、しまった。
そこで慌てて口を噤んだのは、先ほど知った彼の本名を、うっかり滑らせてしまったから。
両手で口元を覆い隠して、がっつりやってしまいました感を醸し出していると、田中はそんな俺の頭に手を乗せて、がしがしと掻き撫でてきた。
「はははっ。さっきあの爺さんが言っちゃってたもんなっ。もういいよ、大和には教えるよ」
信号機が、黄色に変わる。普段の田中ならば迷わず突っ込むところだが、今回はやおらに止まっていた。
「俺の名前は聖一希。一つの希望と書いて一希だ」
「一希、さん……」
柔和な笑みに息を飲む。
どうしてだろう、改めて自己紹介をされた途端、胸がじーんと熱くなった。
俺はまだ新米にも満たない仮のメンバーで、任されている仕事だってたかが知れていて、見かけだってへなちょこで。
だけど彼は、そんな俺に『本当』を教えてくれた。こんな俺を信頼してくれた事が、たまらなく嬉しかった。
「一希さんって、呼んでもいいですか……?」
律儀にそう聞けば。
「なんとでも呼びたいように呼べよ。俺は大和の相棒だろ」
と返されて、瞳が潤んだ。けれど。
「俺、まじでそろそろ内田組からは足洗うから。今日の龍は、最後のプレゼントな」
と言った彼に、芽衣を失った悲しみほどではないが、俺の心は間違いなく寂しいと感じた。
その間苦悶し続ける俺に、田中は「ガキだなあ」と何度か言っていたけれど、痛みに強くなるのにも、年の功が関係するのだろうか。
帰りの車内。窓から見上げる夜空にはくっきりとした月が浮かぶ。俺の左二の腕にも、くっきりはっきりと、ドラゴンが刻まれた。
「よかったな、大和。腕出してる限りはもう馬鹿にされねえよ」
どこか嬉しそうな田中は、弟の成長を喜ぶ兄のような顔を見せた。まだ赤く腫れぼったい龍が、先行車のテールランプでその赤みを増す。
「あの、お金いくらだったっすか?俺、ちゃんと親に言って払いますんで」
「あ?いいよいいよそんなの。俺の奢り」
「ええっ、それは悪いっすよ。メニュー表見たらけっこうな値段だったし、そんな大金、一希さんにっ」
あ、しまった。
そこで慌てて口を噤んだのは、先ほど知った彼の本名を、うっかり滑らせてしまったから。
両手で口元を覆い隠して、がっつりやってしまいました感を醸し出していると、田中はそんな俺の頭に手を乗せて、がしがしと掻き撫でてきた。
「はははっ。さっきあの爺さんが言っちゃってたもんなっ。もういいよ、大和には教えるよ」
信号機が、黄色に変わる。普段の田中ならば迷わず突っ込むところだが、今回はやおらに止まっていた。
「俺の名前は聖一希。一つの希望と書いて一希だ」
「一希、さん……」
柔和な笑みに息を飲む。
どうしてだろう、改めて自己紹介をされた途端、胸がじーんと熱くなった。
俺はまだ新米にも満たない仮のメンバーで、任されている仕事だってたかが知れていて、見かけだってへなちょこで。
だけど彼は、そんな俺に『本当』を教えてくれた。こんな俺を信頼してくれた事が、たまらなく嬉しかった。
「一希さんって、呼んでもいいですか……?」
律儀にそう聞けば。
「なんとでも呼びたいように呼べよ。俺は大和の相棒だろ」
と返されて、瞳が潤んだ。けれど。
「俺、まじでそろそろ内田組からは足洗うから。今日の龍は、最後のプレゼントな」
と言った彼に、芽衣を失った悲しみほどではないが、俺の心は間違いなく寂しいと感じた。
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