道理恋慕

華子

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決意と懇願

決意と懇願4

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 給食のない今日は、始業式と防災訓練をして下校。

「腹減る前には話終わらせるから、悪い」
「今日は塾もないし、べつに急いでないよ」

 俺と勇吾は、7月に訪れたあの公園に来た。
 自動販売機で購入したブラックコーヒーはふたり共に、今日はアイスだった。
 日陰のベンチに身を置いて、微かな蝉の声を耳にする。

「まだ蝉って鳴いてんのね」
「9月くらいだったら鳴くだろ。年々暑くなってるし。でももうこの街最後の1匹っぽいけど」
「確かに」

 今日の俺は、勇吾にどう伝えようかと考える事だけに集中していたはずなのに、結局何も思いつかず、放課後を迎えてしまった。

「蝉の足って何本だっけ」
「昆虫だから6本じゃない?」
「そっか」

 虫の話で繋ぐに、切り出し方を模索する。

「蝉ってさあ……」
「おい大和」

 でも勇吾は早々に、待ったを入れてきた。

「話って蝉のことじゃないだろ?」
「うん、ちがう」
「じゃあなんだよ。煙草に手を出した理由でも、聞かせてくれるのかと思ったのに」

 舌にへばり付くのは、何時間も闇雲に吸ったシガレット。もうよせよと己の手をはたくのに、苦いブラックコーヒーが、喉の奥から醜い手を引きずり出した。

 ニコチンが今欲しい、早く欲しい。
 本当、憐れだ。

 その手を喉につかえながら一所懸命に飲みこんだなら、理性を失った自分がそれを吐き出してしまわぬうちに、勇吾に告げよう。

「なあ勇吾」

 本望ではない、本心を。

「芽衣を幸せにしてやってくんない?」
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