道理恋慕

華子

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中毒と未来

中毒と未来3

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 太陽は、俺等生き物を照らすのに差別なんかしない。善人も悪人も問わず、陽を与えてくれる。眩しいからと手を翳しても、暑いと日陰に隠れても、決して詰る事はない。

 昔、小さい頃にした兄妹喧嘩で、桜子の頭を積み木でって父親に表へと放り出された時、滲む視界で眺めていた空を見て、ほのぼのとした覚えがある。ああ太陽は暖かいな、優しいなって。

 飲み干した缶コーヒーをベンチの下に置き、ずっと聞きたかった事を勇吾に聞いた。

「そういやあさ」
「うん?」
「なんで琴音のことフったの?」

 すると、彼は笑う。

「ははっ。なんだよ今更、中1の冬だろそれ。1年半も前の事だよ?」

 だってさ、お前「好きな奴がいる」と言って琴音と付き合わなかったくせに、それから恋人のひとりも出来てやいないじゃないか。お前なら、すぐにその意中の子をゲット出来そうなのに。

 遅れて缶を空にした勇吾は、俺と同じく足元に置いていた。

「琴音のことは友達として好きだったけど、恋愛対象じゃなかったから」
「ふうん。だから断ったの?」
「だって好きな人じゃなきゃ、付き合えなくないか?」
「まあ…そうだけど」

 芽衣は最初俺を好きではなかったから、当て嵌まらない人もいるけどね。

 背を反らした勇吾は、遠くでじゃれる2羽の雀を眺めて言う。

「大和と芽衣は長く続いてるよね。もう4年くらいにはなる?」
「おう」
「すっげぇなー。一途だな、ふたりとも」

 いつだって、俺とは対極にいる勇吾。けれどもしかしたらひとつだけ同じかもと、小5から永きにわたって感じている事がある。それを声に出したのはあの日の1度だけだけど、4年越しに今、また聞いてみようと思ったのは何故だろう。

「勇吾は芽衣のことどう思ってんの?」

 その問いに、彼はゆっくりと視線を俺に移した。

「……え?」
「勇吾は芽衣が好きなんだろ?」

 ただでさえ大きな双眸なのに、それをぱっくり見開いて。優等生なのだから演技くらいしてくれよ、と少し苛ついた。

「そ、そんなことないよ」
「でも小5に聞いた時は好きだって言ってた」
「昔はな。ちょっといいかもって、ただそれくらいにしか思ってないよ」
「じゃあ今は?」
「今?」
「勇吾の好きっていう女、誰?」

 その時ざわっと風が吹いたのは、外かそれとも心の中か。
 人が言葉を詰まらせるのは、本音を言えないのは、きっと何かに怯んでいるからだろう。俺は父親の威圧感に。勇吾はきっと、俺との友情が崩れる事に。
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