道理恋慕

華子

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中毒と未来

中毒と未来1

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 俺の出勤日は増えた。月に3回から週に1回へ。週に1回から週に3回へ。
 忙しい部活動にでも入っていれば、親も多少は気を遣ってくれたのだろうか。

 薬の受け渡しに加え、見知らぬ赤の他人に電話で金を要求する行為も強制された。いや、強制という表現は間違っているな、俺がノーと言えなかっただけだ。

 受話器越し、孫だか息子だかの名前を連呼し心配する老人の声に、いつも胸は酷く傷んだ。

 逃げ場のない、牢屋にすら思えてしまうビルの一室の一画で、卓に項垂れ涙ぐんでいれば、田中が時折励ましてくれた。

「大丈夫だよ。すぐ慣れっから」

 俺が2度目に犯した罪の時にくれた言葉と、同じ言葉。慣れてしまうのは怖かった。けれどこの気持ちのままでは苦しかった。

「ありがとう、ございます……」

 だから早く慣れてしまえと、思ってしまった。

 事務所とも言えるこの部屋で、俺の父親を知らぬ者達は、根性も負けん気も感じられない子供の俺を無下に扱うのに対し、俺の血縁を知る数名は、弟のように可愛がってくれた。親分トップの息子を崇めるでも讃えるでもなく、人生初めてのバイトで挫けそうな学生を宥め励まし受け入れるように。

 父親はきっと、そういう人情味溢れる人にしか俺を預けていないのだと感じた。本名は知らないが、田中も佐藤も鈴木も皆、俺とフレンドリーに接してくれる。

 幼少期に覚えた父親の愛情を、こんな些細な事でキャッチできれば、俺の精神は幾らか落ち着いたんだ。

『みかじめ料の徴収』なんていうのもあって、田中を含めた数人に1度、繁華街へ連れて行かれた事がある。
「今日は見とけ」と彼が言ってくれたから、俺は仲間の背中越しにその光景を見るだけで済んだけれど、とても恐ろしい言葉が飛び交っていた。

 みかじめ料が何かは分からない。スマートフォンに答えは入っているだろうけれど、調べようとも思わない。
 ただその取り立てに首を横に振れば、瞬く間に地獄に堕とされる事は学んだ。経験のない痛みを与えられ、恐怖心を植え付けられる。これだけは間違いない。
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