道理恋慕

華子

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空虚と妖雲

空虚と妖雲5

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 芽衣の兄は「また来てね」と言い、用事に出かけた。母親もまた、「ゆっくりしていってちょうだいね」と言い、買い物に出た。家に残されたのは、芽衣と俺のふたりだけ。

 片付けの済んだ食卓で、コーヒーを啜りながら俺は聞く。

「芽衣の部屋ってどこにあんの」
「玄関入ってすぐのとこ」
「見せてよ」
「え」
「芽衣の部屋、見てみたい」
「やだ」

 迷いもせず断った芽衣は、ふうっとカップから湯気を逃す。俺は負けない。

「少しだけ」
「だめ。散らかってるから」
「うそだ」
「ほんと」
「でも見たい」
「見せられる部屋じゃないよ」
「でも見る」
「えーっ」

 芽衣の部屋がどんなテイストなんだろうって、確かにそれも気にはなるのだけれど、1番はこれ。

 ふたりきりで、まったりしよーよ。

 君に触れて落ち着きたい、ゆっくりしたい。何故なら君は俺の癒し、オキシトシンなんだもの。君を感じれば、俺は癒される。

「部屋行こー」
「やーだー」

 ねえお願い、芽衣。最近の俺は少しだけ疲れてしまっているんだ。だから俺を、治療して。
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