道理恋慕

空虚と妖雲

空虚と妖雲３

　芽衣の母親も、また清楚。顔は君によく似ていた。

「お邪魔します。内田大和といいます」
「こんにちは大和くん。いつも芽衣と仲良くしてくれてありがとうね」
「いいえ、こちらこそ。手を洗わせてもらってもいいですか？」
「もちろんよ」

　快く、通された洗面所。
　ピカピカに磨かれた鏡に、きちんと端を揃えられたハンドタオル。水垢なんて片鱗へんりんも見当たらないその場所に飛び散らせてしまった水滴は、なんとなく袖で拭った。

　手を洗い居間へ戻ると、食卓を彩っていたのはフランス風な料理の数々。
　ナイフとフォークはナイフレストに。等間隔にカットされたフランスパンはカッティングボードの上に。片仮名だけで説明できそうな全てが、俺の家庭とのギャップを知らしめていた。

「すごい豪快ですね……」
「そんなことないわよ。今日は芽衣の恋人の大和くんが来るから、張り切っちゃっただけ」

　立ち尽くしたまま見入る俺に、既に着席していた芽衣は「座りなよ」と俺の服を引っ張った。

「い、いただきます」
「たくさん食べてね」

　昨日の事もだいぶ別世界体験だったけれど、今日も別の意味で次元が違う。何て言うか、もしかして俺って、芽衣に釣り合っていないのかなって、そう思ってしまう。

「うっちゃんが家にいるなんて、新鮮だなぁ」

　でも、意気消沈した俺の側そば、浮かれた君が──

「でもきっとこれから何回も来たら、当然みたいになっちゃうんだろうねっ」

　未来を口にしてくれたから。
　だから俺は、このまま君の恋人でいていいのだと、そう思えたんだ。

「そのうち『また来たの？』なんて呆れるなよ」
「あはは。呆れないしっ」

　俺等の行く先は必ずや明るいって、そう信じていいんだよね。