道理恋慕

華子

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日常と異常

日常と異常5

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「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 扉の向こう側から声がした時、あれだけ穏やかだった鈴木の語り口は、一気にゴツくなった。

「ふざけんなよおい!寒空のもとどれだけ待たせるんだよテメエ!脳天ブチ抜くぞ!」

 すると中から今度聞こえたのは、酷く怯えた「今行きます」。

 カチャッと遠慮がちに開いた扉を、鈴木は容赦なく全開に。玄関には両手の平をこちらに見せた、降参ポーズの男が立っていた。
 佐藤と鈴木の黒目が俺を捉える。俺からしてみればただのか弱そうなおじさんにごめんと思いながら、「この人です……」と小さく言った。

「はいはい静かにしてね~、ボディチェーック」

 鈴木が睨みを利かせている間に、佐藤が男の服の上から武器の保持を確かめる。

「よし、オケ」

 それが無事に終了すると、ただでさえ近距離だった鈴木と男のつらが、ギリギリまで近付いた。
 閉められた扉。男も俺も、逃げ場を失った。すぐそこで、聞こえてくる鈴木の声。

「おいオッサン。俺等もアンタに痛い思いをさせたいわけじゃない。ただルールを守ってくれっつー話をしに来たんすよ」
「は、はい……」
「アンタはこの坊主から薬を買った。ならアンタはそれ相当の金を払わなきゃいけない。あん?俺が言ってること、間違ってっか?」
「いいえっ、ま、間違っていませんっ」
「そうだろう?そしたら何故払わない」

 目の前で、男同士が言い合いをしている。こんな状況、学校でも街中まちなかでも見た事がある光景だ。だから大丈夫だ、俺。そんなにビビらなくたって。

 時間よ早く過ぎろと願いながら、俺は息を殺した。

「きっちり払うもん寄越せや」
「そ、それが…あのっ」
「あ?」
「ちょ、ちょっと待ってほしく──」
「まさかねえのに奪ったんじゃないだろうな!?そりゃオッサン、カツアゲでっせ!?」

 ダンッと今度は壁が喚く。3対1というのも十分この男を不憫に思う理由なのだけれど、それだけではない。

「命で落とし前つけるかコラァ!?」

 圧倒的な体格差、力の差。まるで子鹿がライオンにでも虐められているように見えてしまう。

「す、すみません、それだけは!!」

 今すぐにでも全身を引き裂きかれ喰われてしまう、そんな風に。
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