道理恋慕

華子

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日常と異常

日常と異常3

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「そいつ、どんな奴だった?」

 運転席に座る男は、自身の事を『佐藤』と言った。

「ご、50代くらいで、切れ長の一重ひとえだった気がします……」

 くちゃくちゃ噛むガムの音が、真横で響く。

「他は」
「あとはええっと、痩せていて……」
「他は」
「き、傷があったかもしれないです」
「傷?どこに」
「顔の、この辺に……」

 人差し指で右頬をなぞりそう言えば、佐藤はバックミラー越しに、後部座席へ視線を投げていた。

「もしかしたらアイツかな」
「そうかもな」

 俺のすぐ後ろに座る男は、『鈴木』らしい。上半身しかまだ見えていないのに、その肩幅の広さで圧倒された。
 佐藤は言う。

「アイツ、最近仕事先からクビ切られて金がねえって話なんだよな。お前どっからどう見ても鼻くそ中坊だし、ナメられたのかもな」
「す、すみません……」
「まあ、仕方ねえよ」

 頭を下げている間だけ、また浮かんできたのは疑問符だった。俺は何故謝っているのだろう。何に対しての謝罪なのだろう。
 唇に残る鉄の味。泣きたくなる。


「アイツの住まいここだよなあ。確か204ニーマルヨン

 よく廃墟にならないなと思うほどの酷い外観のアパートに着くと、佐藤は煙草を吹かして言う。

「さっさとやっちゃいますか」

 にひっと薄気味悪い笑みで鈴木と目配せ。煙草を咥えたまま運転席の扉を開けた。

「お、俺はどうしたらっ」

 立て続けに降車するふたりに、俺も降りた方が良いのかと気迷った。そこで待ってろなんて言葉を期待したが、「当たり前だろ」とすぐに返され慌てて降りる。

「お前が顔知ってんだから、お前がいなきゃだめじゃん」
「そうですよね、すみません……」

 再び頭を下げて、上げた時。佐藤から手渡されたもの。

「使ったことあるか?チャカ」

 それは極道ドラマや映画でしか見たことがない拳銃だった。

「ん?さては初めてだな」

 初めても何も、一生触れる事などないだろうと思っていた本物の拳銃だ。
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