道理恋慕

華子

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再犯と秘密

再犯と秘密4

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 芽衣が俺の家に来たのは2回目で、今日こそ『幸せだったな』だけで終えたいのに。

「大和、また頼みがある」

 父親のタイミングは、悪すぎる。

 嫌な予感しかしないその真面目なトーンに、6時を過ぎたあたりから騒ぎ出していた腹の虫は一気に静まった。
 母親と一緒に帰宅早々、新聞紙を食卓に放った父親はどこか御冠おかんむり。彼に聞こえぬよう、俺は床に向かって舌打ちを投げた。

「なに……」
「裏通りに黒のバンがつけてあるから、それに乗れ。この前みたいな受け渡しだ」
「なんの」
「なんのって。そんなことお前が知らなくていい。父さんも詳しいことは知らん」

 知らないわけがないだろ。そんな下手なしらばくれ、首をすくめる桜子の前でしないで欲しい。

「俺、運転免許持ってないけど」
「そんなの知ってる。運転手はちゃんといる」
「黒い車なんて沢山あるから、間違えるかも」
「電柱の傍だ。分からなかったら父さんに電話しろ」

「やっぱりいいや」と言ってくれる事に期待して、俺は足踏みに勤しんだ。

「この前もあっち行ったりこっち行ったりして少し迷ったし、俺でいいの?違う人に渡しちゃうかもよ?」
「どいつに渡すかは、運転手に特徴を聞け」
「でもなあ、自信ないよ」
「自信なんていらん、タコでも出来る」
「けどさあ……」

 次の理屈は何にしよう。父親が諦めるに値する、決定的な一言はないものかと頭を振り絞っている時だった。

「四の五の言わずに早く行け!長いこと停車してたら怪しまれるだろうが!」

 父親は、声を荒げた。

 自身でほうった新聞紙を再度手に取った彼は、それで卓に一撃喰らわせて、「ひゃっ!」と桜子の悲鳴をいざなう。一方の母親はトントンと夕食の準備を進めるだけで、我関せずだ。

 なんだよ、なんでそんなに苛立ってるんだよ。夫婦喧嘩でもしたか?それともまた手下のミスか?理由はなんであれ、これじゃあ八つ当たりじゃないか。

 無機質な物への暴力ですっかり怖気付いた俺は、目も向けてくれやしない母親に縋った。

「ほんとに行かなきゃだめなの?母さん」

 包丁の音が止まり、彼女はゆっくり顔を上げて言う。

「大和ごめんね。お願い」
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