道理恋慕

華子

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嫉妬と接近

嫉妬と接近8

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 今日の夕飯は、俺の大好物鶏そぼろ丼だった。それでも元気のチャージは出来ずに、箸を黙々と進めるだけ。
 会話の少ない俺に、母親と桜子が何やら目配せをし始めた時だった。プルルと笑う、芽衣のアイコン。

「も、もしもしっ!?」

 鶏そぼろを、口から何粒も溢しながら電話に出た。席を立ち、子供部屋へと一目散。バタンと乱暴に扉を閉めると、俺はそれを背にしゃがみ込む。

「うっちゃん」

 愛しい愛しい、芽衣の声。感情が昂る。

「きょ、今日どうしたの!?スマホ見つかったの!?どうしてすぐ戻って来なかったの!?」

 一方的に、クエスチョンマークばかり投げつける自分には、「桜子かよ」とツッコミを入れたくなった。

「今日はごめんね、ずっと連絡とれなくて。電池も途中で切れちゃってさ、今やっと家に帰って来て、充電出来たの」

 疲弊が伝わる声なのに、帰宅し真っ先に電話をくれた芽衣へ感謝が込み上げる。
 ふうっと息を吐いて、君は続ける。

「琴ちゃんから聞いてると思うけど、私今日、スマホ失くしちゃったの。勇吾と同じ場所で」
「うんっ、それは聞いたっ」
「思い当たるとこ全部回っても見つからなくてね、スタッフさんにスマホの特徴を言ったら、『それなら事務所に届けられました』って言われたの。だから勇吾と一緒に、事務所に向かったんだ」
「うん」
「なのに、着いたらなんて言われたと思う?」

 君の苛立ちは、板越しでも感じてとれた。

「信じられないよっ。『金庫の鍵を持ったスタッフが、そのまま退勤してしまいました』だなんて言うんだもんっ」
「ええ!?まじかよっ」
「もともと早上がりの人だったらしいんだけどね、ズボンのポケットに金庫の鍵入れたまま、帰っちゃったんだってっ。他のスタッフさんが慌ててその人に電話をかけてくれて、連絡ついたから、鍵が戻って来るのを事務所でずっと待ってたの。だけど今思えば1回うっちゃんと琴ちゃんのとこへ行って、状況を説明すれば良かったよね。なんか私も勇吾もパニックになっちゃってて……本当ごめんね」

 筋の通ったその説明は、俺に安堵を授けてくれた。そしてそれと同時に感じたのは、芽衣を一瞬でも疑った己への悔い。そのふたつの気持ちは混ざり合い、今すぐに逢いたい恋しさへと変わっていった。

「芽衣」

 でも『今すぐ』はとてもじゃないけれど、非常識だと思ったから。

「明日の日曜、会える?」

 俺は今日に1番近い太陽を選んだ。

「うん、会えるよ」
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