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嫉妬と接近
嫉妬と接近1
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若葉の緑は、青い空によく映える。
校庭での体育の授業中、フェンス越しに見えた木々の新緑が、次の数学の時間も目蓋の裏に居座るくらい、ポストカードのようで印象深かった。
放課後の芽衣は、琴音の手を引きながら俺の席までやって来た。
「うっちゃん、ちょっと話があるんだけど」
「話?なに」
「教室じゃ話せないから、どっかで話そ」
「いいけど…琴音も?」
「うん。琴ちゃんの話だからっ」
琴音は芽衣の後ろで、どこか落ち着かない様子でいた。
小学生の頃、大の寄り道嫌いだった芽衣が指定したのは、学校から15分ほど歩いたファーストフード店。
「なんでここ?さっき通った店でよくないか?」
「あんまり近場で、先生にバレたら嫌じゃん」
中学生になった今でも、建前は真面目な生徒だ。
「で、どうした琴音。なんかあった?」
琴音の話だと言う割には、さっきから肝心の本人が喋らない。
「ほら琴ちゃん、今日こそうっちゃんに言おうって言ってたじゃん」
「そうだけど……」
「大丈夫だよ。うっちゃんって意外と人情深いから」
ふたりが筒抜けなコソコソ話をしている間、俺はストローを噛む事で暇を潰した。
噛みすぎて、まだ6割は残っているソーダ水が吸いづらくなったところで、ようやく「絶対に誰にも言わないほしいんだけど」と、琴音の前置きが聞こえてくる。
「私、勇吾のこと好きなんだよね」
「え。勇吾って古河勇吾?」
「うん」
ワオ。
心の中、外人反応。胸にずっとかかっていた霧が、晴れていくさまを感じた。
芽衣は勇吾が好き。そう知ってしまった時の感情の残骸が、まだ俺の中には残っていた。
けれど今、琴音が俺に彼へ対する恋心を打ち明けたという事は、芽衣は親友である琴音の恋を応援しようとしているという事で、それはつまり、芽衣はもう勇吾なんて好きじゃないという意味で、だからそれは、俺だけを好きって事で──
勝手に繋げて出した答えで、悦に入る。
「いいじゃん。琴音に似合うよ、勇吾。付き合っちゃいなよ」
平然を装う為、俺は使い物にならないぺたんこのストローを咥える。のほほんと耳を傾けているだけにしか見えない俺に、芽衣は強い口調で訴えた。
「そんな簡単に、付き合っちゃえとか言わないでよっ。琴ちゃんはうっちゃんみたいに、相手の気持ち関係なく強引に恋人にしたりしないんだからっ」
その言葉に、俺はぶっと吹いた。
「ご、強引って。俺そんな……」
いや、否定はできないが。
琴音も笑いながら、「うんうん」と相槌を打っていた。芽衣は言う。
「だから、うっちゃんに協力してほしいんだ」
「協力?」
「今度の週末、4人であそこ行こーよ。去年遠足で行った技術館」
「あー、そういやそんなとこ行ったな」
「あの時の勇吾すごく楽しそうだったの。色々実験もできるしさ、時間足らないーって帰り道に言ってたんだよね」
君が楽しそうにする思い出話は、俺の心にまた薄い霧をかけていた。小学6年生の頃はまだ勇吾を目で追っていたのかなと、そう思わせたから。
「いいよ、土曜?日曜?」
「どっちでもいいよ。うっちゃんから勇吾に、空いてる日にちを聞いてみてほしいんだ」
「おっけ」
「ありがとう」と言った芽衣と琴音の前、俺はまた、ぺたんこのストローを咥えた。
校庭での体育の授業中、フェンス越しに見えた木々の新緑が、次の数学の時間も目蓋の裏に居座るくらい、ポストカードのようで印象深かった。
放課後の芽衣は、琴音の手を引きながら俺の席までやって来た。
「うっちゃん、ちょっと話があるんだけど」
「話?なに」
「教室じゃ話せないから、どっかで話そ」
「いいけど…琴音も?」
「うん。琴ちゃんの話だからっ」
琴音は芽衣の後ろで、どこか落ち着かない様子でいた。
小学生の頃、大の寄り道嫌いだった芽衣が指定したのは、学校から15分ほど歩いたファーストフード店。
「なんでここ?さっき通った店でよくないか?」
「あんまり近場で、先生にバレたら嫌じゃん」
中学生になった今でも、建前は真面目な生徒だ。
「で、どうした琴音。なんかあった?」
琴音の話だと言う割には、さっきから肝心の本人が喋らない。
「ほら琴ちゃん、今日こそうっちゃんに言おうって言ってたじゃん」
「そうだけど……」
「大丈夫だよ。うっちゃんって意外と人情深いから」
ふたりが筒抜けなコソコソ話をしている間、俺はストローを噛む事で暇を潰した。
噛みすぎて、まだ6割は残っているソーダ水が吸いづらくなったところで、ようやく「絶対に誰にも言わないほしいんだけど」と、琴音の前置きが聞こえてくる。
「私、勇吾のこと好きなんだよね」
「え。勇吾って古河勇吾?」
「うん」
ワオ。
心の中、外人反応。胸にずっとかかっていた霧が、晴れていくさまを感じた。
芽衣は勇吾が好き。そう知ってしまった時の感情の残骸が、まだ俺の中には残っていた。
けれど今、琴音が俺に彼へ対する恋心を打ち明けたという事は、芽衣は親友である琴音の恋を応援しようとしているという事で、それはつまり、芽衣はもう勇吾なんて好きじゃないという意味で、だからそれは、俺だけを好きって事で──
勝手に繋げて出した答えで、悦に入る。
「いいじゃん。琴音に似合うよ、勇吾。付き合っちゃいなよ」
平然を装う為、俺は使い物にならないぺたんこのストローを咥える。のほほんと耳を傾けているだけにしか見えない俺に、芽衣は強い口調で訴えた。
「そんな簡単に、付き合っちゃえとか言わないでよっ。琴ちゃんはうっちゃんみたいに、相手の気持ち関係なく強引に恋人にしたりしないんだからっ」
その言葉に、俺はぶっと吹いた。
「ご、強引って。俺そんな……」
いや、否定はできないが。
琴音も笑いながら、「うんうん」と相槌を打っていた。芽衣は言う。
「だから、うっちゃんに協力してほしいんだ」
「協力?」
「今度の週末、4人であそこ行こーよ。去年遠足で行った技術館」
「あー、そういやそんなとこ行ったな」
「あの時の勇吾すごく楽しそうだったの。色々実験もできるしさ、時間足らないーって帰り道に言ってたんだよね」
君が楽しそうにする思い出話は、俺の心にまた薄い霧をかけていた。小学6年生の頃はまだ勇吾を目で追っていたのかなと、そう思わせたから。
「いいよ、土曜?日曜?」
「どっちでもいいよ。うっちゃんから勇吾に、空いてる日にちを聞いてみてほしいんだ」
「おっけ」
「ありがとう」と言った芽衣と琴音の前、俺はまた、ぺたんこのストローを咥えた。
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