道理恋慕

華子

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初犯と狼狽

初犯と狼狽15

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 この街を訪れるのは、初めてではない。数年前、2番出口を出てすぐのこのレストランでは、家族揃ってハンバーグを食べた記憶がある。
 あの時は、店内から漏れる肉の匂いに腹の虫が喜んでいた。久しぶりの外食に、心躍らせていた。
 今日もあの日と変わらない香りが漂っているし、看板もきらきらと煌びやかなのに、俺の心は全く浮かない。

 ああそうか、ここはきっと、正真正銘別世界だ。俺が電車という箱に入っている間に、ワープしてしまったのだろう。

 鉛のように重い足を引きずって、指定場所へ行く。

 駐車場には、ビニール袋を引っ提げている20代くらいの男がいた。セダンに寄り掛かり、スマートフォンに目を落としながら煙草を吹かしているから、話しかけるタイミングが掴めずにいたけれど、父親から連絡が行っているのか、俺が目の前まで行くとすぐに男は反応した。

「あ、お前か。青いスニーカーの坊主っての」

 俺って坊主かな。髪は父親より長いと思うのだけど。

「は、はい」
「ほいこれ、よろしく。じゃ」

 外灯の光で男の顔を目視する暇もなく、彼は袋を俺に寄越すと瞬く間に車に乗り込んだ。

「え、ちょっと」

 エンジンをかけると同時に、窓から払われる手。俺は後退り、急発進するその車を眺める事しかできなかった。

 恐る恐る、覗き見る袋の中。するとそこにはホームセンターで売っているような、花の種のパックが数種類入っていた。

 カモフラージュ。

 中学生の俺には、この中身が綺麗な花を咲かせるなんて信じられなかった。
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