道理恋慕

初犯と狼狽

初犯と狼狽８

　あっという間に終わった君との時間。雨上がりの虹を潜くぐり、君は君の家へと帰って行く。

「また明日ね、うっちゃん」

　そう言われるだけで、明日は輝く。俺は心の底から恋をしている。

　両親は俺に恋人がいるだなんて知らない。家族の中では桜子だけにしか話していないし、彼女の追撃するような質問攻めも苦手だ。だから俺は芽衣の背中を見送った後、証拠隠滅を図った。

　粘着テープの掃除用具を真新しい1枚にして、コロコロとフローリングを駆け回る。芽衣と使ったふたつのグラスは、スポンジで洗って水切りカゴに並べて置いた。

　2個あったら変かな。まあ、コーヒーと麦茶で使い分けたっていう体ていでいいか。

　あとはペンのキーホルダー。『めい』という平仮名はしなやかで優美。この地球上で1番好きな2文字だ。けれどこれは明らかに女性名称であって、学生鞄になんて付けていたら「俺には恋人がいます」という証明書でしかない。
　俺はそれを両手に供物そなえもののように置くと、暫し眺め入る。

　芽衣がこれを鞄に付けてくれれば、あっちだって恋人ありの印になるんだよなあ。

　桜子の質疑の波よりも縄張り根性が勝まさった俺は、校名がプリントしてある鞄の表面にそのキーホルダーを括った。