道理恋慕

華子

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恋慕と成就

恋慕と成就10

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 腕をぴんと伸ばすと、芽衣は茶の土を背景に俺の目に映った。俺は青と緑を背景に、君の瞳に映っているのだろうか。

 赤いランドセルは君の枕へと化けた。蟻はその真横を徘徊しているし、服は少し汚してしまったかもしれない。俺という人間は本当、遠慮のカケラもない。

「…うっちゃん、なにするのっ」

 顔を歪ませた君。

「……ごめん」

 そう謝りながらも、好きな人の顔がこれだけ間近にあると、両親が時折酔ってする『キス』というやつをしたくなった。でもそれは流石に「最低」と罵られ、嫌われそうだからやめておく。

「なあ芽衣。お願い、俺の彼女になってよ」
「やだよ。うっちゃんは友達だもん」
「それでもいいから」

 だってそうでもしなきゃ、君はいつか勇吾の元へ行ってしまうでしょ?

「それでもいいから彼女になって」

 懇願する俺の前、君は予想よりも長引いた放課後の話に、兎にも角にも早急に自宅へ帰りたがった。

「やだってば。どいて」
「やだ」
「もう帰るからどいてよ、うっちゃん」
「やだ」
「やだじゃないよ、帰らなきゃ」
「やだっ」

 君は「もうっ」と荒く言い放つと、抗う言葉を飲み込んで、渋々白旗を上げた。

「わかった……」

 その瞬間、華やぐ胸。

「ほんと!?ほんとにいいの芽衣!?」
「しー!静かにっ!わかったからどいてってばっ」

 こんな力ずくのやり方で手に入れたイエスでも、心は躍った。
 土から手を離し道を開くと、きょろきょろ周りを確認してから茂みを出る芽衣。俺も続けて出ようとしたが、揃えた5本の指に止められた。

「うっちゃんは来ないで。ひとりで帰れるから」
「え」
「じゃあね」

 そう言って、君は足早に家路を行く。俺は黒のランドセルを枕に、晴れ渡る空を見上げた。
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