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あり得ない今と、あり得ない未来と
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我慢できず落涙したお母さんに、お父さんがティッシュペーパーを差し出していた。それを受け取って、彼女は続ける。
「今日だってね、お母さんちっとも生きた心地がしなかったの。朝起きたら和子がいなくて、夜までずっと帰って来なくてっ。途中、連絡をくれたから居場所は把握できたけれど、でも、それでもどこかで突然倒れたらどうしようと考えたらもう、心配で心配で……食事も全く、喉を通らなかったわ……」
ティッシュペーパーで目頭を押さえつけ、涙がこぼれるのを必死に堰き止めようとするお母さんだけれど、滝のように流れてくるものに対してそれは無駄な抵抗で、彼女の涙は次々に、下まぶたを越えては落ちていった。
両親にかけている心労が、わたしの心を苦しめる。早くアメリカに行く決断をしないと、わたしよりも先に彼等の方が倒れてしまうのではないのかと感じてしまった。
10パーセント。
それがなんだって言うのだ。
10パーセント。
そんな数字にもう、惑わされない。
そう強く思うのに、結局その日、わたしは頷くことができなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、最後にお父さんがこう言った。
「だけどね、和子。不安よりもなによりも、父さんたちの心にあるのはこれなんだ」
ふっと微笑むお父さん。陽だまりのような笑み。
「和子の心臓は必ず治るんだっていう、その期待。父さんと母さんは信じてるよ、和子が元気いっぱいに暮らせる日々を」
「今日だってね、お母さんちっとも生きた心地がしなかったの。朝起きたら和子がいなくて、夜までずっと帰って来なくてっ。途中、連絡をくれたから居場所は把握できたけれど、でも、それでもどこかで突然倒れたらどうしようと考えたらもう、心配で心配で……食事も全く、喉を通らなかったわ……」
ティッシュペーパーで目頭を押さえつけ、涙がこぼれるのを必死に堰き止めようとするお母さんだけれど、滝のように流れてくるものに対してそれは無駄な抵抗で、彼女の涙は次々に、下まぶたを越えては落ちていった。
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※1 本作は、「ラムネ色した空は今日も赤く染まる」という以前書いた短編を元にしています。
※2 以下の作品について、本作の性質上、物語の核心、結末に触れているものがあります。
〈参考〉
伊藤左千夫『野菊の墓』(新潮文庫)
ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』(ハヤカワepi文庫)
堀辰雄『風立ちぬ/菜穂子』(小学館文庫)
三田誠広『いちご同盟』(集英社文庫)
片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』(小学館文庫)
村上春樹『ノルウェイの森』(講談社文庫)
住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉文庫)
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