海神アオハル

華子

文字の大きさ
上 下
67 / 76
海神コンビ解散

海神コンビ解散17

しおりを挟む
 グレーの地へ落ちて行く濱口の巨体を追うようにして、金属バットが彼の足元へ落下した。ガラガランッとグリップエンドとヘッドが交互に音を奏でると、ころころ一時ひととき転がり止まる。濱口は、釘か何かで張り付けられたように、アスファルトで固定された。

 俺の着地は案の定、大失敗。二、三歩よろけて尻をつく。苦しそうに横たう海の顔をかろうじて踏まずに済んだ、そんなところで。

「か、海っ、平気か……?」

 そう聞くと、海は色々な箇所に皺を寄せながらも笑顔を作ってくれた。

「あったまいってえ……」
「ナントカ君の一撃か」
「あいつまじ、もう一発殴ってこよっかな……」
「もー意識ねえから。やっても手応えゼロよ」

 崩した体育座りをする。平和を取り戻した工事現場は、とても物静かな場所だった。

「なあ、海」
「んー?」
「助けてくれてありがとう」
「ははっ。なんだ急に。いっつもお礼なんて言わねえじゃん」
「今日のは海が来てくれなかったら、まじで墓行きだった」

 海が側にいてくれる。それだけで、俺は強くなれる。

 ゆっくりと上半身を起こした海は、まだ痛むであろう額を手で押さえて言う。

「神、俺こそありがとう」

 それは思いもよらない言葉だった。

「え、ありがとう?なにが、なんで?」

 自嘲じちょう気味に、笑う海。

「お前のパンチで、なんか目ぇ覚めたよ」
「え……?」
「俺さ、同性同士の恋愛なんて変だと思ってた。男を好きになっちまった自分にも、上手く同調できずにいた。本当は、神は俺のものだーって世間にすんげえ言いふらしたいのに、どっかでストッパーかけてたっていうか、鎖繋いでたっつーか」

 海がそんな風に思っていてくれた。感激の波が俺を包む。

「神が変なんじゃない。俺が間違ってたんだ。十人十色とか、千差万別とか多種多様とかそんな熟語、大して頭のよくねえ俺でも意味は知っていたはずなのに、なんつーか、こう……自分の周りにいなかったからさ。俺等みたいのはテレビの中だけにいる、珍キャラみてえに思えちまった。だから、神が恋人であることも、俺が男の神を好きなことも、隠してた」

 だけど、と彼はあいだに挟み、こう続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...