ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いまから未来へ2

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 芝生から立ち上がり、うーんとひとつ伸びをする。肺深くまで吸った空気は夏そのもの。春の名残を感じられるのは、北の空に浮かぶ春の星、北斗七星だけだ。

 出た、出しゃばり北斗七星。

 そんなナツの言葉を思い出し、少し笑えた。

「ははっ。出しゃばりってなんだよ」

 春が夏の空にお邪魔をするのは、ずっとナツの側にいたいから。

 しばらくして、三本の流れ星が見えなくなればもう、ナツはどこへ行ったのかわからなくなった。

「ナツ……」

 さっきまで隣にいたナツ。ついさっきまで、君の温もりを感じていたのに。

「うっ……」

 心にあるのは悲しみだけではない。
 それはたしかな事実だけれど。
 心の大部分は悲しみが支配している。
 それもたしかな真実だ。

 だからこの涙が止まるには、いくらか時間が必要だろう。

 きらめく星々。そのどれかがきっと君。

 ハルくんっ。

 ナツの声が木霊する。

 ハルくん、好きだよ。

 天高くに両手を伸ばした俺は、君のいる空をひとつ包み込んだ。
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