ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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「いつか俺がナツの元へ行く日が来たら、この恋の続きを始めようよ」

 ハルくんがくれる、おぼろげな約束。日にちも何も決まっていないけれど、彼は必ず守ってくれると知っている。

「その時が来たら、今度は俺の方から気持ちを伝える。ナツを見つけて、必ず言うから」
「ハルくんっ……」

 心に募るのは温かいもの。ハルくんは夏真っ只中の今日だって、名前の通り、春みたいな人だ。
 そんなハルくんへするのは最後の告白。今日が一番、穏やかな気持ちで言えると思った。

「ハルくん」

 真っ直ぐと、彼を見る。

「わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか」

 泣き顔だけど、飛びきり笑顔。
 好きな人に可愛く思われたいのは、恋する乙女なら誰だってそうだ。

 ただでさえ近かったふたりの顔を数センチ近付けたハルくんも、泣き顔笑顔。
 ゆっくりと彼の想いがことに乗せられて、わたしはそれを、頭の中で繰り返した。

「俺も」

 俺も。

「ナツのことが」

 ナツのことが。

「好きです」

 好きです。


 俺もナツのことが好きです。


 夢が叶った瞬間だった。


「ありがとう、ハルくん」

 瞳を閉じたハルくんがくれたキスは、愛しさがぎゅっと詰まった愛のかたまり。彼の愛に包まれて、わたしは夜空に溶けていく。
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