ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま66

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 嘘偽りない純なハルくんの瞳。息を飲む。

「空と俺たちがいるこの場所をわける境界線なんて存在しない。丘から見下ろしている町の人から見れば、今の俺とナツは空の近いところにいるんだ。ううん、空だって言ってもいい。俺は今、空を通してナツを見てる」

 一語一句はっきりとそう言われ、わたしもなんだかその気になってくる。

「ここは、空なの?」
「うん。空だよ」
「ハルくんもわたしも今、空にいるの?」
「そうだよ。俺もナツも、空にいる」

 宙に置いていた五本の指をゆっくりと曲げていったハルくんは、最終的にはグーを作ってこう言った。

「見て、ナツ。今俺が握って持っているのは空の一部。これからナツが行く場所と同じ空。ふたりはいつだって一緒の空間にいるんだって思えばきっと寂しくなんかないよ。俺とナツはずっと繋がっているって、そう強く思おうよ」

 高い声でははっと笑ったハルくんは、強がっているんだってすぐにわかった。
 涙をこらえるのは、今日だけでもう何度目だろうか。だけど今回の涙は悲しみや切なさからくるものではなく、感動の涙だってはっきり言える。

 わたしは今、感極まっている。

「ナツ。一日早いけど誕生日おめでとう」

 空を離したハルくんの手が、今度はわたしの手をそっと握った。

「本当は俺も、ナツみたいになにかプレゼントを贈りたいけれど、物だと天国には持っていけないから。だから、今から伝える言葉を受け取ってほしい」

 泣きそうなのは、互いに同じ。だけど最後は笑顔でお別れしたい気持ちも同じだから、わたしたちは微笑んだ。
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