ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま65

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 地上の星を、会話をやめたふたりでしばし眺めた。夜へ近付くにつれて増す輝きに、本物の星空と見間違いそうになる。

「ナツ、空も見て」

 あたりがすっかり暗くなった頃。今度はハルくんの人差し指が上を向く。顔を上げた瞬間に、わたしは絶句した。

「町よりもっとキラキラしてるでしょ」

 そう得意げに言うハルくんの隣、わたしは現実にもこんな景色があるのかと疑った。なぜなら夜空一面が、プラネタリウムに見えたから。

「うっそ……」

 こと座にわし座にはくちょう座。その中でも一際きらめくベガとアルタイルは、七夕で有名な織り姫と彦星のこと。ふたりの間に流れる天の川に重なる夏の大三角が、今にも手にとれそうなほど大きく見えた。

「こんな星空、見たことない……」

 思わず空へ手を伸ばし、ぎゅっと掴みにかかるけど、それは当然くうをきり、自分で自分を苦く笑った。

「やっぱ遠いね、空って」

 空っぽなままの手のひらをハルくんに見せてそう言うと、彼はわたしよりも大きな手のひらを、ふたりの間のちゅうに置く。

「遠くないよ。だってここからが空だもん」

 彼の言う「ここから」は、まさにその手から始まっていた。
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