ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま64

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「はあっ、きゅーけーっ!」

 丘の上公園へ着き、まず最初にすること。それは休息をとること。
 ぼんっと豪快に草むらへ倒れ込んだハルくんを見て、わたしも隣の緑に腰を下ろす。

「だ、大丈夫?ハルくん」

 ゼエゼエと懸命に酸素を取り入れるハルくんは、会話も難しそうだったけど、にっと見せた白い歯で、「大丈夫」をアピールした。
 彼の呼吸が落ち着いたタイミングで、話しかける。

「疲れてるのに本当にごめんね」
「だから大丈夫だって」
「でもっ」
「すいすい上れてたでしょ?あの坂」
「ん~、そうかなあ?」
「おい」
「あははっ。でも本当に大丈夫?明日の部活に響かない?」
「ちゃんとあとで柔軟体操するよ。それに、俺がどうしてもここにナツを連れてきたかっただけだから、ナツはなにも気にしないで」

 よいしょと緑から上半身を起こしたハルくんは、「見て」と丘の下に広がる景色を指さす。その途端、わたしは感動した。

「わあ、綺麗……」

 太陽が沈み、色を失いかけた町を星よりも早くまばゆかせるのは、色とりどりのネオンたち。

「わたしたちの町って、上から見るとけっこうキラキラしてるんだね」

 ここは見晴らしのいい丘の上。家や店、車や外灯が放つひとつひとつの光の粒が、ビーズのように散りばめられていた。

「ナツんちも俺んちも、この中にあると思うと不思議だよな」
「うん、不思議」
「人はひとりも見えないけど、この輝きの中で大勢の人が暮らしてる」
「出た、ポエマー」
「あ、やば」
「ふふ」

 きつい坂道のせいなのか、それとも運がよかったのか。ハルくんとわたし以外誰もいないこの公園は、この世でもあの世でもない、別世界に思えた。
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