108 / 120
いま64
しおりを挟む
「はあっ、きゅーけーっ!」
丘の上公園へ着き、まず最初にすること。それは休息をとること。
ぼんっと豪快に草むらへ倒れ込んだハルくんを見て、わたしも隣の緑に腰を下ろす。
「だ、大丈夫?ハルくん」
ゼエゼエと懸命に酸素を取り入れるハルくんは、会話も難しそうだったけど、にっと見せた白い歯で、「大丈夫」をアピールした。
彼の呼吸が落ち着いたタイミングで、話しかける。
「疲れてるのに本当にごめんね」
「だから大丈夫だって」
「でもっ」
「すいすい上れてたでしょ?あの坂」
「ん~、そうかなあ?」
「おい」
「あははっ。でも本当に大丈夫?明日の部活に響かない?」
「ちゃんとあとで柔軟体操するよ。それに、俺がどうしてもここにナツを連れてきたかっただけだから、ナツはなにも気にしないで」
よいしょと緑から上半身を起こしたハルくんは、「見て」と丘の下に広がる景色を指さす。その途端、わたしは感動した。
「わあ、綺麗……」
太陽が沈み、色を失いかけた町を星よりも早く眩かせるのは、色とりどりのネオンたち。
「わたしたちの町って、上から見るとけっこうキラキラしてるんだね」
ここは見晴らしのいい丘の上。家や店、車や外灯が放つひとつひとつの光の粒が、ビーズのように散りばめられていた。
「ナツんちも俺んちも、この中にあると思うと不思議だよな」
「うん、不思議」
「人はひとりも見えないけど、この輝きの中で大勢の人が暮らしてる」
「出た、ポエマー」
「あ、やば」
「ふふ」
きつい坂道のせいなのか、それとも運がよかったのか。ハルくんとわたし以外誰もいないこの公園は、この世でもあの世でもない、別世界に思えた。
丘の上公園へ着き、まず最初にすること。それは休息をとること。
ぼんっと豪快に草むらへ倒れ込んだハルくんを見て、わたしも隣の緑に腰を下ろす。
「だ、大丈夫?ハルくん」
ゼエゼエと懸命に酸素を取り入れるハルくんは、会話も難しそうだったけど、にっと見せた白い歯で、「大丈夫」をアピールした。
彼の呼吸が落ち着いたタイミングで、話しかける。
「疲れてるのに本当にごめんね」
「だから大丈夫だって」
「でもっ」
「すいすい上れてたでしょ?あの坂」
「ん~、そうかなあ?」
「おい」
「あははっ。でも本当に大丈夫?明日の部活に響かない?」
「ちゃんとあとで柔軟体操するよ。それに、俺がどうしてもここにナツを連れてきたかっただけだから、ナツはなにも気にしないで」
よいしょと緑から上半身を起こしたハルくんは、「見て」と丘の下に広がる景色を指さす。その途端、わたしは感動した。
「わあ、綺麗……」
太陽が沈み、色を失いかけた町を星よりも早く眩かせるのは、色とりどりのネオンたち。
「わたしたちの町って、上から見るとけっこうキラキラしてるんだね」
ここは見晴らしのいい丘の上。家や店、車や外灯が放つひとつひとつの光の粒が、ビーズのように散りばめられていた。
「ナツんちも俺んちも、この中にあると思うと不思議だよな」
「うん、不思議」
「人はひとりも見えないけど、この輝きの中で大勢の人が暮らしてる」
「出た、ポエマー」
「あ、やば」
「ふふ」
きつい坂道のせいなのか、それとも運がよかったのか。ハルくんとわたし以外誰もいないこの公園は、この世でもあの世でもない、別世界に思えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

つないだ糸は切らないで
gacchi
恋愛
オトニエル王国の侯爵家に生まれたアンリエットは、八歳の時に視察に行く両親について隣国の辺境伯領地に訪れたが、そこで両親は何者かに襲われ殺されてしまう。一人になったアンリエットを辺境伯二男シルヴァンは王都まで送り届け、いつまでも家族だと約束をして別れる。その十年後、アンリエットは新しく養父となった叔父には冷たくされ、王太子の婚約者として心身ともに疲れ切っていた。ついには義妹と婚約者の交換をちらつかされ何もかもが嫌になったアンリエットは、平民の冒険者になってシルヴァンに会いに行く。

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ
七瀬菜々
恋愛
先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。
また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?
これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?
横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。
婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。
しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。
ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。
それも妹のリリーによってだった。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる