106 / 120
いま62
しおりを挟む
ぱっと咲く花をイメージして笑顔を作ったのは、また泣いてしまいそうになったから。
今日はハルくんから「好き」を言ってもらえる夢が叶う素敵な日で、悲しい日なんかじゃないよって、必死に自分へ言い聞かせた。
だけどハルくんは笑わない。
いつの間にやら反転し、フェンスと真正面で向き合っていたハルくんは、そこへガシャンッとやり場のない感情をぶつけていた。
「なんでナツなんだよ……」
そう言って、またガシャンッと叩いて。
「ナツはなにも悪くないのにっ……!」
再び拳を強くぶつける。
「ハルくん……」
それは、わたしの思いの代弁にも見えた。
なんでわたしなの?わたし、何かした?
自分が幽霊だって知らされてから、ずっとそう思っていた。
なんでお母さんが死ななきゃいけないの?お父さんもただ、運転をしていただけなのに。
でもそんなのは、今さら嘆いても仕方のないこと。それなのに。
「ナツを返せよっ、ナツの家族もみんな、みんな返せよ……っ!」
ハルくんが代わりに嘆いてくれるから、やっぱり泣けてしまうよ。
「ハルくん、ありがとう」
ふたりのむせび泣く声は、元気な野球少年たちの声にまみれて消えた。
今日はハルくんから「好き」を言ってもらえる夢が叶う素敵な日で、悲しい日なんかじゃないよって、必死に自分へ言い聞かせた。
だけどハルくんは笑わない。
いつの間にやら反転し、フェンスと真正面で向き合っていたハルくんは、そこへガシャンッとやり場のない感情をぶつけていた。
「なんでナツなんだよ……」
そう言って、またガシャンッと叩いて。
「ナツはなにも悪くないのにっ……!」
再び拳を強くぶつける。
「ハルくん……」
それは、わたしの思いの代弁にも見えた。
なんでわたしなの?わたし、何かした?
自分が幽霊だって知らされてから、ずっとそう思っていた。
なんでお母さんが死ななきゃいけないの?お父さんもただ、運転をしていただけなのに。
でもそんなのは、今さら嘆いても仕方のないこと。それなのに。
「ナツを返せよっ、ナツの家族もみんな、みんな返せよ……っ!」
ハルくんが代わりに嘆いてくれるから、やっぱり泣けてしまうよ。
「ハルくん、ありがとう」
ふたりのむせび泣く声は、元気な野球少年たちの声にまみれて消えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが
雪丸
恋愛
エミリアの婚約者、クロードはいつも彼女に冷たい。
それでもクロードを慕って尽くしていたエミリアだが、クロードが男爵令嬢のミアと親しくなり始めたことで、気持ちが離れていく。
エミリアはクロードとの婚約を解消して、新しい人生を歩みたいと考える。しかし、クロードに別れを告げた途端、彼は今までと打って変わってエミリアに構うようになり……
◆エール、ブクマ等ありがとうございます!
◆小説家になろうにも投稿しております

かぐや姫奇譚?ー求婚者がダメンズばかりなんですがー
青太郎
恋愛
皆さんご存知の竹取物語。
「お前は罪を犯しました。よって穢れた下界へと追放となります」
…。
気付いたら、そのかぐや姫になっていました。
あれ?…俺、男だったはずなのに…
『…あなたは、私を補助する為の人格ではないのですか?』
日本最古の追放物語。
竹取物語とざまぁが好きな方、ぜひ軽い気持ちでお楽しみください。
【10話ぐらいまでは話の進みが遅いです】
*題名変更しました(旧:追放されましたーかぐや姫奇譚ー)
* 原文、時系列、歴史的背景に忠実ではないのでテストの役には立ちません

【完結】3度婚約を破棄された皇女は護衛の騎士とともに隣国へ嫁ぐ
七瀬菜々
恋愛
先日、3度目の婚約が破談となったモニカは父である皇帝から呼び出しをくらう。
また皇帝から理不尽なお叱りを受けると嫌々謁見に向かうと、今度はまさかの1回目の元婚約者と再婚約しろと言われて----!?
これは、宮中でも難しい立場にある嫌われ者の第四皇女モニカと、彼女に仕える素行不良の一途な騎士、そして新たにもう一度婚約者となった隣国の王弟公爵との三角関係?のお話。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【完結】まだ結婚しないの? 私から奪うくらい好きな相手でしょう?
横居花琉
恋愛
長い間婚約しているのに結婚の話が進まないことに悩むフローラ。
婚約者のケインに相談を持ち掛けても消極的な返事だった。
しかし、ある時からケインの行動が変わったように感じられた。
ついに結婚に乗り気になったのかと期待したが、期待は裏切られた。
それも妹のリリーによってだった。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる