ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま62

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 ぱっと咲く花をイメージして笑顔を作ったのは、また泣いてしまいそうになったから。
 今日はハルくんから「好き」を言ってもらえる夢が叶う素敵な日で、悲しい日なんかじゃないよって、必死に自分へ言い聞かせた。

 だけどハルくんは笑わない。

 いつの間にやら反転し、フェンスと真正面で向き合っていたハルくんは、そこへガシャンッとやり場のない感情をぶつけていた。

「なんでナツなんだよ……」

 そう言って、またガシャンッと叩いて。

「ナツはなにも悪くないのにっ……!」

 再び拳を強くぶつける。

「ハルくん……」

 それは、わたしの思いの代弁にも見えた。

 なんでわたしなの?わたし、何かした?

 自分が幽霊だって知らされてから、ずっとそう思っていた。

 なんでお母さんが死ななきゃいけないの?お父さんもただ、運転をしていただけなのに。

 でもそんなのは、今さら嘆いても仕方のないこと。それなのに。

「ナツを返せよっ、ナツの家族もみんな、みんな返せよ……っ!」

 ハルくんが代わりに嘆いてくれるから、やっぱり泣けてしまうよ。

「ハルくん、ありがとう」

 ふたりのむせび泣く声は、元気な野球少年たちの声にまみれて消えた。
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