ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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 東小学校に着いてまず聞こえてきたのは、ハルくんとわたしが大好きな音。

「うわっ。もうちょっとでホームランじゃんっ」

 カキンと空へ響くサウンドは、いつ何時なんどき聞いても気持ちがいい。
 青空へ向かって真っ直ぐ伸びていく白いボールは、地球に重力さえなければ宇宙にだって届くだろう。

「ナツは、どんな小学生だったの?」

 こっそりと侵入した校庭の隅っこ。ふたりフェンスに背を預け、野球少年と校舎を眺める。

「いたって普通、かな」
「ええ、普通ってなに」
「平凡中の平凡ってこと。これと言って、語れる思い出もないなあ」

 内気で人見知りのわたしは友達が多い方ではなかったし、恋もしていないし、部活動で何か功績を残したわけでもない。そんな小学校生活はとことんありきたりで、何の変哲もなく終了した。

 でもだからこそひしひしと感じるのは、中学へ入ってからの、この刺激。

「わたし、ハルくんと出逢えて本当によかったって思ってる」

 ハルとナツ。俺たちの名前って、なんか季節みたいだよね。

 入学したその日から、ハルくんは気さくに話しかけてくれた。

 俺のことも下の名前で呼んでよ。

 そう言ってくれたから、わたしは生まれて初めて男の子のことを下の名前で呼べた。そして下の名前で呼んでみたら、なんだかすごく距離が近くなった気がした。

「ハルくんと出逢ってからは、毎日がすごく輝いていて刺激的だった。こんな風に言ったらハルくんはオーバーだって笑うかもしれないけど、わたしの中学校生活はハルくんが彩ってくれたんだよ。毎日学校へ行くのが楽しみだった、ハルくんと会えない夏休みなんかなくなっちゃえって思った。ハルくんがいなかったら、わたしの人生はこんなにカラフルにはならなかった」

 だから離れがたい、この世界。

「今まで本当にありがとう、ハルくんっ」
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