105 / 120
いま61
しおりを挟む
東小学校に着いてまず聞こえてきたのは、ハルくんとわたしが大好きな音。
「うわっ。もうちょっとでホームランじゃんっ」
カキンと空へ響くサウンドは、いつ何時聞いても気持ちがいい。
青空へ向かって真っ直ぐ伸びていく白いボールは、地球に重力さえなければ宇宙にだって届くだろう。
「ナツは、どんな小学生だったの?」
こっそりと侵入した校庭の隅っこ。ふたりフェンスに背を預け、野球少年と校舎を眺める。
「いたって普通、かな」
「ええ、普通ってなに」
「平凡中の平凡ってこと。これと言って、語れる思い出もないなあ」
内気で人見知りのわたしは友達が多い方ではなかったし、恋もしていないし、部活動で何か功績を残したわけでもない。そんな小学校生活はとことんありきたりで、何の変哲もなく終了した。
でもだからこそひしひしと感じるのは、中学へ入ってからの、この刺激。
「わたし、ハルくんと出逢えて本当によかったって思ってる」
ハルとナツ。俺たちの名前って、なんか季節みたいだよね。
入学したその日から、ハルくんは気さくに話しかけてくれた。
俺のことも下の名前で呼んでよ。
そう言ってくれたから、わたしは生まれて初めて男の子のことを下の名前で呼べた。そして下の名前で呼んでみたら、なんだかすごく距離が近くなった気がした。
「ハルくんと出逢ってからは、毎日がすごく輝いていて刺激的だった。こんな風に言ったらハルくんはオーバーだって笑うかもしれないけど、わたしの中学校生活はハルくんが彩ってくれたんだよ。毎日学校へ行くのが楽しみだった、ハルくんと会えない夏休みなんかなくなっちゃえって思った。ハルくんがいなかったら、わたしの人生はこんなにカラフルにはならなかった」
だから離れがたい、この世界。
「今まで本当にありがとう、ハルくんっ」
「うわっ。もうちょっとでホームランじゃんっ」
カキンと空へ響くサウンドは、いつ何時聞いても気持ちがいい。
青空へ向かって真っ直ぐ伸びていく白いボールは、地球に重力さえなければ宇宙にだって届くだろう。
「ナツは、どんな小学生だったの?」
こっそりと侵入した校庭の隅っこ。ふたりフェンスに背を預け、野球少年と校舎を眺める。
「いたって普通、かな」
「ええ、普通ってなに」
「平凡中の平凡ってこと。これと言って、語れる思い出もないなあ」
内気で人見知りのわたしは友達が多い方ではなかったし、恋もしていないし、部活動で何か功績を残したわけでもない。そんな小学校生活はとことんありきたりで、何の変哲もなく終了した。
でもだからこそひしひしと感じるのは、中学へ入ってからの、この刺激。
「わたし、ハルくんと出逢えて本当によかったって思ってる」
ハルとナツ。俺たちの名前って、なんか季節みたいだよね。
入学したその日から、ハルくんは気さくに話しかけてくれた。
俺のことも下の名前で呼んでよ。
そう言ってくれたから、わたしは生まれて初めて男の子のことを下の名前で呼べた。そして下の名前で呼んでみたら、なんだかすごく距離が近くなった気がした。
「ハルくんと出逢ってからは、毎日がすごく輝いていて刺激的だった。こんな風に言ったらハルくんはオーバーだって笑うかもしれないけど、わたしの中学校生活はハルくんが彩ってくれたんだよ。毎日学校へ行くのが楽しみだった、ハルくんと会えない夏休みなんかなくなっちゃえって思った。ハルくんがいなかったら、わたしの人生はこんなにカラフルにはならなかった」
だから離れがたい、この世界。
「今まで本当にありがとう、ハルくんっ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

私のことを嫌っている婚約者に別れを告げたら、何だか様子がおかしいのですが
雪丸
恋愛
エミリアの婚約者、クロードはいつも彼女に冷たい。
それでもクロードを慕って尽くしていたエミリアだが、クロードが男爵令嬢のミアと親しくなり始めたことで、気持ちが離れていく。
エミリアはクロードとの婚約を解消して、新しい人生を歩みたいと考える。しかし、クロードに別れを告げた途端、彼は今までと打って変わってエミリアに構うようになり……
◆エール、ブクマ等ありがとうございます!
◆小説家になろうにも投稿しております
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
割り切った婚姻に合意はしたけれど、裏切って良いとは言ってない
すもも
恋愛
私エイファは7歳の時に親に売られた。
戦場に……。
13年の月日を経て、戦争から戻った私をあの人達は嘲笑い、馬鹿にし、追い出した。
もう2度と会うつもりはなかった。
なのに、
私を産ませた男は、結婚の相手だとダニエルを連れてきた。
中性的な美貌、甘い声、夫候補となったダニエルは、スルリと私の心に入り込み、私の家族とも言える大切な人達にも受け入れられた。
お互いを認め合った私達は、結婚へと踏み切ったのだけど……。
「私達はお互い親に疎まれてきました。 私達は理解しあえるはずです。 それでも両親から逃げるために結婚は有効だと私は思うのです。 きっと私達は、お互いの尊厳を守りあう良い夫婦になれますよ」
そこに愛は感じられなかった。
それでも幸せになれると信じていたの……。
彼に裏切られたと知るまでは……。

大好きだけどお別れしましょう〈完結〉
ヘルベ
恋愛
釣った魚に餌をやらない人が居るけど、あたしの恋人はまさにそれ。
いや、相手からしてみたら釣り糸を垂らしてもいないのに食らいついて来た魚なのだから、対して思い入れもないのも当たり前なのか。
騎士カイルのファンの一人でしかなかったあたしが、ライバルを蹴散らし晴れて恋人になれたものの、会話は盛り上がらず、記念日を祝ってくれる気配もない。デートもあたしから誘わないとできない。しかも三回に一回は断られる始末。
全部が全部こっち主導の一方通行の関係。
恋人の甘い雰囲気どころか友達以下のような関係に疲れたあたしは、思わず「別れましょう」と口に出してしまい……。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる