ハルのてのひら、ナツのそら。

華子

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いま59

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「この駄菓子屋さん懐かしーっ」

 行き先を決めないまま町を駆けていると、幼い頃よく利用していた小さな駄菓子屋が目に入った。
 百円玉一枚でも数個のお菓子が頬張れるこの店は、子供にとっては夢の場所。今日はまだ日曜日の午前中だけれど、早起きな子供たちがすでに何人か入店していた。

「入る?」

 キキッと自転車を停めたハルくんにそう聞かれ、わたしはうんと頷いた。
 ふたり並んで店へ入り、選ぶお菓子。

「ねえねえハルくん、これ買って」

 不審がられるから、店の中では幽霊のわたしと会話はできない。だけどわたしは喋れるから、ハルくんに喋りかける。

「ねえハルくん、これこれ」

 わかりやすいよう指で示せば、ハルくんはそれを手にとっていた。

「あとはねえ、これ」

 そう言うとまたひとつ、とってくれる。真顔で自然に買い物を進めるハルくんは、まるで本物のおひとりさまだ。

「あらあら、ぼく何年生?ずいぶんと背が高いのねえ」

 ハルくんをおひとりさまだと思ったのはわたしだけではなく、わたしのことが見えない店主もそう。

「五年生?それとも六年生かい?」

 小学生であることを前提としたあばあちゃん店主の質問には、ハルくんが恥ずかしそうにこう答える。

「ちゅ、中三ですっ」
「チュウさん?」
「ちゅ、中学三年生ですっ」
「あらまあ、中学三年生。そんなに大きくなってもまだここに来てくれてるの」

 くすくすと、笑い声が聞こえてきたのはそれからすぐ。声の方へと目を向ければ、そこには小学校低学年くらいの女の子がふたり、ハルくんを見て笑っていた。

「あのおにいちゃん、中学生なんだって」
「ひとりなんだね、おともだちいないのかなあ」

 べつに中学生がひとりで駄菓子屋を訪れてもわたしはおかしくないと思うが、この子たちの目には不思議に映ったようで、じろじろとハルくんを見てはおもしろがっていた。
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