103 / 120
いま59
しおりを挟む
「この駄菓子屋さん懐かしーっ」
行き先を決めないまま町を駆けていると、幼い頃よく利用していた小さな駄菓子屋が目に入った。
百円玉一枚でも数個のお菓子が頬張れるこの店は、子供にとっては夢の場所。今日はまだ日曜日の午前中だけれど、早起きな子供たちがすでに何人か入店していた。
「入る?」
キキッと自転車を停めたハルくんにそう聞かれ、わたしはうんと頷いた。
ふたり並んで店へ入り、選ぶお菓子。
「ねえねえハルくん、これ買って」
不審がられるから、店の中では幽霊のわたしと会話はできない。だけどわたしは喋れるから、ハルくんに喋りかける。
「ねえハルくん、これこれ」
わかりやすいよう指で示せば、ハルくんはそれを手にとっていた。
「あとはねえ、これ」
そう言うとまたひとつ、とってくれる。真顔で自然に買い物を進めるハルくんは、まるで本物のおひとりさまだ。
「あらあら、ぼく何年生?ずいぶんと背が高いのねえ」
ハルくんをおひとりさまだと思ったのはわたしだけではなく、わたしのことが見えない店主もそう。
「五年生?それとも六年生かい?」
小学生であることを前提としたあばあちゃん店主の質問には、ハルくんが恥ずかしそうにこう答える。
「ちゅ、中三ですっ」
「チュウさん?」
「ちゅ、中学三年生ですっ」
「あらまあ、中学三年生。そんなに大きくなってもまだここに来てくれてるの」
くすくすと、笑い声が聞こえてきたのはそれからすぐ。声の方へと目を向ければ、そこには小学校低学年くらいの女の子がふたり、ハルくんを見て笑っていた。
「あのおにいちゃん、中学生なんだって」
「ひとりなんだね、おともだちいないのかなあ」
べつに中学生がひとりで駄菓子屋を訪れてもわたしはおかしくないと思うが、この子たちの目には不思議に映ったようで、じろじろとハルくんを見てはおもしろがっていた。
行き先を決めないまま町を駆けていると、幼い頃よく利用していた小さな駄菓子屋が目に入った。
百円玉一枚でも数個のお菓子が頬張れるこの店は、子供にとっては夢の場所。今日はまだ日曜日の午前中だけれど、早起きな子供たちがすでに何人か入店していた。
「入る?」
キキッと自転車を停めたハルくんにそう聞かれ、わたしはうんと頷いた。
ふたり並んで店へ入り、選ぶお菓子。
「ねえねえハルくん、これ買って」
不審がられるから、店の中では幽霊のわたしと会話はできない。だけどわたしは喋れるから、ハルくんに喋りかける。
「ねえハルくん、これこれ」
わかりやすいよう指で示せば、ハルくんはそれを手にとっていた。
「あとはねえ、これ」
そう言うとまたひとつ、とってくれる。真顔で自然に買い物を進めるハルくんは、まるで本物のおひとりさまだ。
「あらあら、ぼく何年生?ずいぶんと背が高いのねえ」
ハルくんをおひとりさまだと思ったのはわたしだけではなく、わたしのことが見えない店主もそう。
「五年生?それとも六年生かい?」
小学生であることを前提としたあばあちゃん店主の質問には、ハルくんが恥ずかしそうにこう答える。
「ちゅ、中三ですっ」
「チュウさん?」
「ちゅ、中学三年生ですっ」
「あらまあ、中学三年生。そんなに大きくなってもまだここに来てくれてるの」
くすくすと、笑い声が聞こえてきたのはそれからすぐ。声の方へと目を向ければ、そこには小学校低学年くらいの女の子がふたり、ハルくんを見て笑っていた。
「あのおにいちゃん、中学生なんだって」
「ひとりなんだね、おともだちいないのかなあ」
べつに中学生がひとりで駄菓子屋を訪れてもわたしはおかしくないと思うが、この子たちの目には不思議に映ったようで、じろじろとハルくんを見てはおもしろがっていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

美人な姉と『じゃない方』の私
LIN
恋愛
私には美人な姉がいる。優しくて自慢の姉だ。
そんな姉の事は大好きなのに、偶に嫌になってしまう時がある。
みんな姉を好きになる…
どうして私は『じゃない方』って呼ばれるの…?
私なんか、姉には遠く及ばない…

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
割り切った婚姻に合意はしたけれど、裏切って良いとは言ってない
すもも
恋愛
私エイファは7歳の時に親に売られた。
戦場に……。
13年の月日を経て、戦争から戻った私をあの人達は嘲笑い、馬鹿にし、追い出した。
もう2度と会うつもりはなかった。
なのに、
私を産ませた男は、結婚の相手だとダニエルを連れてきた。
中性的な美貌、甘い声、夫候補となったダニエルは、スルリと私の心に入り込み、私の家族とも言える大切な人達にも受け入れられた。
お互いを認め合った私達は、結婚へと踏み切ったのだけど……。
「私達はお互い親に疎まれてきました。 私達は理解しあえるはずです。 それでも両親から逃げるために結婚は有効だと私は思うのです。 きっと私達は、お互いの尊厳を守りあう良い夫婦になれますよ」
そこに愛は感じられなかった。
それでも幸せになれると信じていたの……。
彼に裏切られたと知るまでは……。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

愛されない皇子妃、あっさり離宮に引きこもる ~皇都が絶望的だけど、今さら泣きついてきても知りません~
ネコ
恋愛
帝国の第二皇子アシュレイに嫁いだ侯爵令嬢クリスティナ。だがアシュレイは他国の姫と密会を繰り返し、クリスティナを悪女と糾弾して冷遇する。ある日、「彼女を皇妃にするため離縁してくれ」と言われたクリスティナは、あっさりと離宮へ引きこもる道を選ぶ。ところが皇都では不可解な問題が多発し、次第に名ばかり呼ばれるのはクリスティナ。彼女を手放したアシュレイや周囲は、ようやくその存在の大きさに気づくが、今さら彼女は戻ってくれそうもなく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる